花火のように咲く、君の笑顔が見たいから
保健室で初めて会話をした時やっぱり胡散臭い奴だと思った。でもそれと同時に猫に話しかけていたあの時のように、笑顔を向けてほしくなった。

もうこの時からすでに俺は手遅れだったのかもしれない。

彼女と話していくうちに…やっぱり笑顔がかわいいだとか、思ったよりも猫が好きなところとか、一緒にいると心が軽くなるように感じる。
彼女といると"あの頃"のことなんて、どうでもいいのかもしれない。自分には関係のないことなんじゃないのかって考えてしまう。

でも、修学旅行の班決めの時に気付いたことがあった。宙が──想乃を慕っていることを。

「班、女子も一緒だよな。どうする?」
「んー、別に何でもいいけど」

何でもいいと口にしながらも頭には想乃の姿が浮かんでいた。何でだよ…と自分に突っ込んでいると、ふと宙の視線がどこかに向いていることに気付く。

「……」
それは、彼女だった。最初は篠原かと思ったけれど違うようだ。その瞳は、優しく想乃のことを一直線に見つめていたから。
俺とは違う。真剣な眼差しを見ていれば伝わってくる。きっと宙なら相手が誰であろうと幸せにできるのだろうと思う。

そんなことを考えていた時に宙が口を開いた。
「あそこにいる二人はどう?」
「…あぁ。いいよ何でも」


修学旅行が始まってバスにひどい隈を浮かべた想乃が乗ってきた時は驚いた。
「ふっ…なにその顔 」
「想乃ちゃん大丈夫?眠いならバスの中で寝てもいいからね」

俺とは対称的に違って優しい声をかける宙。想乃には宙を見習えって言われたけれど。でも、これでいいんだ。
俺は想乃の存在のなかで軽く会話ができるくらいの"友達"でいられればいい。
そう思っているはずだ、それなのに…想乃が隣に座った時少しだけ嬉しく思ってしまった。

「───おやすみ」
隣ですやすやと穏やかに眠る彼女が愛おしく見えた。
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