花火のように咲く、君の笑顔が見たいから
消えない煙のなかで
物心ついた頃から母は俺のことを嫌っていた。俗に言う育児放棄…虐待だった。
でも俺はそのことに気付いていなかった。

「おかぁさん…お腹減ったよー!」

「っうるさい…!静かにしてよ!もうなんで私がこんな子産んじゃったの…なんで…」

「おかあさん…?」

本当に分からなかったんだ。なんで母が自分に怒っているのかも、ご飯をくれないのかも。
──だってそんなわけないと思っていたから。
自分のことを産んでくれた親が自分のことを嫌うなんて有り得ない、俺が母を好きなように母もそうなんだと純粋にそう思っていた。

きっと何か悪者がいるのかもしれない。母を苦しめるなにかが、だからきっと俺に酷いことをするのだ。

「おとうさん!遊びたい!!」
「…あぁ。外でキャッチボールでもするか」

父は優しかった。俺がお腹を空かせていた時はこっそりご飯をくれた。いつも俺と遊んでくれて、でも父の顔には毎日隈ができてひどい顔をしていた。

「…おとうさん、疲れてるの?」
「はは、大丈夫だよ。彗は優しいなぁ…お前は誰かを助けられる人にきっとなるぞ」
「っうん!俺困ってる人がいたら助けるよ!」

今思えばぐちゃぐちゃだったのかもしれない家でも、俺にとって家族と過ごす時間がなによりも大好きだった。

「にゃあー!」
「あははっ…!ノノくすぐったいってば!」

父と母、そして猫のノノ。この先もずっとこの生活が続いていくと思っていた。
< 105 / 130 >

この作品をシェア

pagetop