花火のように咲く、君の笑顔が見たいから
この場に…こんな家にはもういたくなかった。誰もいない家のなか俺は少ないお小遣いだけをもって家から飛び出した。

どこでも良かったのだ。とにかく逃げて誰かに自分は必要だと言ってほしかった。

「はぁ、はぁ…ここって…？」
無我夢中に走って走って行き着いた先は、賑やかな場所だった。どこかに家族と出かけたことも少ない俺にとってそこは初めて見る光景ばかりだった。

人混みの中、色とりどりの屋台が並び甘い香りが鼻をくすぐる。金魚すくいや綿あめとかかれた看板がずらりと並んでいる。
鉄砲のおもちゃのような音が響いている。全てのものが光り輝いて風に揺られて、どこか異世界に迷い込んだような感覚に襲われた。

「わぁ…すごい！」

目の前に広がる光景は、子供のころに思い描いた夢の中のように鮮やかで思わず声が漏れる。
その場所に着いた瞬間、魔法のように先程までの気持ちがなくなるようだった。
笑い声や歓声が耳に心地よく響き、心の奥底から何かが満たされていく気がする。

屋台の前に立ち止まり、揺れるスモークが立ち込める中熱々のたこ焼きを頬張る子供たちの姿が目に入る。
みんな笑顔で楽しそうに友達と話している。
その姿を見ていると、自分もその一員になりたいという思いが沸き起こった。そのなかには家族と楽しそうにはしゃいでいる子供も沢山いる。

「いいなぁ…」
この騒ぎのなかでは誰にも聞こえない小さな声がこぼれる。手にしたお小遣いを見つめ、何かを買ってみようかと考える。
少し勇気を出して近くの屋台へと足を運んでみると「ぼく！綿あめ買うかい？」と優しそうなおばさんが話しかけてくれた。

一人で何かを買うという初めての感覚に、心が躍る。

「うん！！わ、たあめ？ってやつ買う！」
綿あめという単語を初めて聞いたがでてきたものはふわふわと白い雲のようで変わった形状をしていた。
少し不思議に思いながらも思い切ってそれを頬張る。
< 108 / 130 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop