花火のように咲く、君の笑顔が見たいから

花火を見終わって、軽くなった気分で家に向かって歩いていた。

「今日は、いい日だったのかも…」

そんなことをふと考えながら、無邪気な笑顔を浮かべた女の子のことを思い出す。
彼女が手を振って見送ってくれたあの瞬間、心が温かく満たされた気がして心の中に灯ったその小さな火は新しい感情だった。

"帰ったら、ノノにおやつをあげよう" そんなことを考えながら、浮かれた気分で家に近づく。

家の前に立った時、ふと違和感を感じた。
いつもなら聞こえるはずのノノの鳴き声すらない。静かすぎる。玄関のドアが少しだけ開いていて、そこから見える家の中はいつもとは違っていた。

「ノノ…？」

かすかな呼び声が自分の耳に届く。何かがおかしいと感じながらも、好奇心に突き動かされるようにそのまま家に足を踏み入れた。
静まり返った家の中にはわずかな焦げた匂いと鉄のような匂いが混じって漂ってくる。

「あれ…？」

足元に小さな足跡のような赤い染みが点々と続いているのを見つける。胸が不快にざわつき始める。
何かが、何かが、違う。

けれど、その理由をまだ理解できず頭の中に浮かんでいたのは先ほどの女の子の笑顔だけだった。

「お母さん？お父さん？」

明るい声で呼びかけながらリビングのドアを開けた瞬間、全てが凍りついた。

「……っ……」

視界に飛び込んできたのは、血まみれになって倒れている父親。
そして、そのすぐ傍で包丁を握り締めた母が立っていた。彼女の手は震え包丁の刃にはまだ赤い液体が滴り落ちている。
その光景を一瞬理解できず、ただ無力なまま立ち尽くす。

「な…ん、で…？」

口から声が漏れたものの、その言葉が母に届いているのかどうかはわからない。
母の目は虚ろでいつもとはまるで違う存在に見えた。

「おかえり…彗」

母が低い声で呟いた。その瞬間、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
目の前の光景が現実だと理解できたのは、母の声が自分の耳に届いた時だった。

「あ、ぁ…」

震える体をどうすることもできず、体が勝手に後ずさっていく。
しかし、背中が壁にぶつかり逃げ場がないことに気づいた。その場で崩れるようにしゃがみ込み頭を抱える。

「ぅっ…ぉえ、嫌だ…」

胸の中にあった温かい感覚は一瞬で消え去り、冷たい現実が彼を包み込んだ。
心臓が激しく鼓動し、全身に冷たい汗が流れる。さっきまで考えていた「良い日だった」という思いは、すでにどこか遠い世界のことのように感じられた。

静まり返った家の中で、ただ、頭の中には母の手に握られた包丁と、父の動かない姿が焼き付いて離れない。