花火のように咲く、君の笑顔が見たいから
私たちはその後、何でもない他愛もない話をしながら教室に戻った。
まだぎこちなさは残っていたけれど、それでも彗は目を逸らさずに私と話をしてくれている。
こんな些細なことが、どうしようもなく嬉しくて幸せだった。

そして教室に戻った瞬間、友人達の輪の中にいた宙くんとばちっと目が合った。私と彗が二人で一緒にいたからだろうか、宙くんは目を見開いて少し驚いたような表情を浮かべていた。
でもすぐに優しい笑顔を私に向ける。

けれどその笑顔はどこか浮かない、心ここにあらずのような表情だった。

彗との喧嘩の原因を無理に聞き出すわけにもいかないし、私があまりにも介入しすぎることは良くないとも思う。
でも、それでも私に何かできることがまだあるかもしれない。彗だけじゃなくて、宙くんだって、修学旅行の時に私を助けてくれたのだ。

そんな思いが私の中に芽生え、私は放課後に宙くんと話をしてみようと決めた。

「唯!ごめん、今日はちょっと用事があって…先に帰っててくれない?」
一瞬きょとんとした表情を唯が浮かべるがすぐに「りょーかい!」と笑顔で敬礼のポーズを見せて去っていく。
きっと私が何をするのか何となく気付いているのかもしれない。唯の明るさにはいつも救われてしまう。

私はそんなことを考えながら、教室で宙くんを待っていた。彼は委員長という事もあってか職員室に先生の手伝いをしてから教室に戻ってくることが多い。

大変そうだと思うが優しい彼らしいとも思う。
私はそんな彼に、正しい言葉をかけられるだろうか。

教室にはすでに人はほぼいない。窓際に座りながら、窓から差し込む夕方の柔らかい光が静けさを一層引き立てている。
心の中では、小さな緊張がじわじわと広がっていた。

私に何ができるのだろう?宙くんと彗の間に立つことで、余計に二人の間をこじらせてしまうんじゃないかという不安も拭えない。

ふと、窓の外を見ると遠くで小さな鳥達が飛び交っているのが見える。その中に飛び立とうと迷っているのか、それとも飛べないのか…一匹の鳥が羽を動かしながらもその場にじっといる姿があった。

でも、その瞬間その鳥は一歩を踏み出したかのようにどこかへと飛び立っていった。
鳥の気持ちなんて私には分からないかもしれないけれどその後ろ姿はどこか自由に見えて、少し勇気をもらえた気がした。

宙くんも彗もすごく優しいんだ。心が暖かくて誰かを助けられる人達だ。
だから…きっと大丈夫。二人の間にある溝は今は深くて、お互い話せない場所にいるのかもしれない。
でも溝を無理に埋めなくたっていい。分かり合えないことも譲れない所も誰しもあることだから。

それならお互いが深い溝がある場所まで向かえばいい。高い場所じゃなくていい。低い場所だとしても二人が寄り添え合える場所を見つけられたなら…それはきっと素敵なこと。

それは私ももう理解していたことだった。莉桜と話をしたから分かる。汚い本音をぶつけていい、もう言うことが無くなるくらい言い合ってもいい。
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