花火のように咲く、君の笑顔が見たいから
結局何を言ったのかも分からずじまいでしまいには自分が怪我をさせたことを忘れてしまっているかのような態度だ。
保険室から出てとぼとぼと1人で教室に戻ると誰かから凄い勢いで抱きつかれる。

「想乃〜!!!心配したよ」
「唯っ…ぐ、くるじい」

思っていたよりも強い力で抱きしめられてつい変な声がでてしまう。
「そういえばさっき彗くん戻ってきてたけど何話したの?!!お姫様抱っことかされちゃってー!」
コロコロと変わる唯の表情筋にはいつも驚かされる。その話題に触れられるとは思っていたけれどまさかこんなにすぐに来るとは。

「いやいや、特に何も…彗も仕方なく運んだだけだと思うよ?」
平然を装い軽く笑いかけるが唯は固まって目を見開いている。

「そ…想乃が…!」
「え?」
「彗だって!名前呼び!?呼び捨てにもなってる!やっぱり何かあったんでしょ?」
ニヤニヤしながら私をこつく唯にやらかした…と先程の自分の発言に後悔する。そういえば今まではさん付け&苗字呼びの他人行儀を徹底していたのだった。

何で唯がこんなに楽しそうにしているのか分からない。いつも彼の話をしているから普通嫉妬とかそういう感情が湧くのではないのかと思っていた。私はずっとそれが気がかりで心配だったのだ。
ちらりと仮面を見ても"怒り''の感情はなくむしろ表情と同様楽しそうにしている。
「唯ってその…彗の事好きなんじゃないの?」
私は意を決して小声でこそっと唯に聞いてみる事にした。だが、またもや彼女はさっきのように目をぱちくりさせて驚いた表情をする。

数秒後、唯は「ぷっ…ふふ、あははっ」と耐えきれないかのように笑い始めた。

「っど、どうしたの唯?!」
あたふたしている私にまたもや笑いがこみあげてきたらしく唯は一通り笑ったあとようやく口を開いた。

「彗くんはね、もう好きとかそういう人じゃないの!いわば推しってやつね、付き合いたいとかも思ったことないよお」
またけらけらと笑いだす唯にきょとんとしてしまう。「推し」という表現にあまり馴染みがない私には少し難しいけれどそういうものなのだろうか。
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