花火のように咲く、君の笑顔が見たいから

✺それでも君となら

目を覚ます直前、長い夢を見ていたような気がした。

それは彗が泣いている夢だった。心は張り裂けて、崩れてしまいそうなのに涙を隠そうと必死な彼の姿。
何度近付いて声をかけようとしても、私の手は届かない。
私が刺されたあの瞬間、鋭い痛みと共に彗の歪んだ表情を鮮明に覚えている。そんな彼にどうしても伝えたかった。
振り絞れた言葉は大丈夫の一言だったけれど、本当はもっと伝えたいことが沢山あった。

─────君は悪くないよ。自分を責めなくていいんだよって。
私のことを救ってくれたのは紛れもなく君で、そんな顔をする必要はないんだって、そう伝えたかった。

「…す、い?」
体が痺れるような感覚と口から出た掠れた声に私は、長い間眠っていたことに気付く。
目の前に広がる光景は夢で見ていたのと同じような彗の姿。私が見ていない間に、無表情の仮面の面積が少し増えてしまったように思う。
一度ひび割れて壊れてしまったその仮面はもう取り繕えないほどにぼろぼろに見えた。

あぁ、きっと君は──私が眠っていた間にも沢山苦しんだんだろう。悩んで、自分を偽ってまた仮面をつけてしまう。でもそんな姿はもう見たくないから。


「っ、もうひび割れた(仮面)を無視しちゃ駄目だよ…!」

君の仮面を、今度こそ壊せるように。

───────────────────────

あの後、体に異常はないとのことで無事退院をすることが出来た。傷自体はあまり深いものではなく、咄嗟に彗が私の体を引き寄せたからだと思う。
それがなければきっと今程度では済まなかっただろう。

あの時のことを考えていた私は、ふと彗の仮面が壊れた場面を思い出した。
あの瞬間に、彼の本音を初めて聞けたような気がした。その姿を見るのが辛くもあり──けれど、今までつけていた無表情の仮面が壊れた先には泣きじゃくる幼い表情をした仮面が残されていた。

『…───やっと、壊せたんだね』
ふと口をついて出た言葉には私にとって沢山の想いが詰まっていて、一言では表せない。
彗がやっと"仮面"という呪縛から解放されたことが嬉しくて、でも彼の過去の重さがなくなる訳ではない。
彼が口にしていた想い───そばにいたい。
その言葉の意味が私にはまだ分からない。私は彗が好きだ。でも彼にとって私の『存在』がどういうものなのか今はまだ、確信がもてない。

恋なんてしない、そう言っていた彼は今一体何を思っているのだろうか。
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