花火のように咲く、君の笑顔が見たいから
明日はついに花火大会だ。

家には既にお父さんしかいないが、入院をしているお母さんからも心配のメールが来ていた。
お父さんからは「今日くらい学校は休んでもいい」と言われたけれど、私はどうしても今日行きたかったのだ。

私が目を覚ましてから、少し時間が経ったあと宙くんも毎日病院に来てくれていたと聞いた。あの時彼がその場にいなかったのは、きっと気遣ってくれたからだろう。
そして私が眠っている間に、唯も沢山のメールを送ってくれていた。

[虹が出てたよ〜想乃と見られないのが残念]
[今日は授業中寝てて先生に怒られちゃった!想乃も早く起きてよね!]

光り輝く虹の写真や、むすっとした絵文字をつけられてる文が送られていたり、その日によって送る内容は異なっていた。
でも、どれも唯らしくて自然とその情景が浮かんできてつい笑みが漏れる。

沢山の人に心配をかけてしまった。だからこそ早く復帰して感謝の気持ちを伝えたい。そして彗にも元気な姿を見せて、安心させたいのだ。

───久しぶりの学校について教室に足を踏み入れた瞬間、懐かしさと新鮮さが同時に押し寄せてきた。
毎日通っていたはずの場所が、なんだか遠く感じる。

「想乃!」
唯の声が響くと、すぐに彼女が駆け寄ってくる。やっぱり元気いっぱいの唯の姿を見ると、自然と顔がほころんでしまう。思わず、こちらも駆け寄る。

「久しぶりだよー想乃!もう元気になった?」
「うん、元気だよ。心配かけちゃってごめんね」
「いいのいいの!でも、ちゃんと休んでたほうが良かったんじゃないの?」

そう言う唯の瞳には、心配の色が浮かんでいる。

「ううん。どうしても来たかったんだ…みんなに会いたくて」

「そっか」と唯はにっこりと笑い二人で教室の中に向かう途中、宙くんと目が合った。彼は私を見ると優しそうに微笑む。

「想乃ちゃん、良かった。もう怪我は大丈夫?」
宙くんの柔らかい声が耳に届く。

「大丈夫だよ。それより宙くんも毎日来てくれてたんだよね…ありがとう」
改めて言葉にすると、少し照れ臭くなってしまう。

宙くんは少し驚いたような顔をしてからすぐに優しく「いーえ」と返した。その表情が、なんだか今まで以上に優しく感じられた。
教室に戻りつつある日常を感じながらも、頭の片隅には彗のことが残っていた。昨日、あんなことがあったばかりだ。彼は今どうしているだろうか──。

そんなことを考えていると、少し遅れて登校してきた彗を見つける。彼も私を見つけると、突然顔が赤くなったのが分かった。耳まで真っ赤に染まっている。

驚いた私は目を細めて微笑んでいると、彗は急いで私の方にずかずかと歩いてきた。

「はよ…体調、大丈夫か?」
声が少し震えているのが分かる。昨日、私の前で涙を見せたことが恥ずかしかったのか、彼の表情は少しこわばっている。
そんな彼の仮面にも、照れたような表情が混じっていた。今まではずっと無表情の仮面をつけていたけど、その仮面の下にこんな表情が隠れていたんだなと思うと、なんだか新鮮な気持ちになる。

「もう元気だよ。明日も楽しむ気満々だしね」
にかっと笑ってみせると、彗も「ふっ…よかった」と、少し安心したような顔をした。

私がこんな風に自然と笑顔を浮かべられるようになったのも彗と出会ってからだった。私も変われたんだなと、ふと思い返してしまう。
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