花火のように咲く、君の笑顔が見たいから
「じゃあ、もう帰るの?」
「っ…」
その言葉に声が詰まる。もう帰らないと、いけないのか。
あの家に。嫌な気持ちがじわじわと心を侵食していってズキズキと心臓の辺りが痛む感覚が這い上がる。

毎日学校に行って家に帰る。その繰り返しなはずなのに未だに慣れないこの感覚が嫌いで仕方ない。

「…猫、好きなの?」
帰ろうかなと口に出そうとする前に先に言葉を発したのは彗だった。
突拍子もない発言に少し戸惑うが「好きだよ」と返す。

「なら、うち来る?」
「へ…」
「いや違うからね?別に変な意味じゃなくて…ノノもいれてうち3匹猫いんだよ。家近いから…」

少し焦りながら話す彼に「ふふっ…」とつい笑いが漏れる。別に私だって彼が変なことを言い出さないことは知っている。
ただ何で今日初めて話をしたくらいの関係性の私を家に招いてくれるというのに驚いただけだ。

時間を見ると今は4時…これくらいならまだ家に帰らなくても大丈夫そうな時間だ。
気まづい気もするけれど行く宛ても特にないのだ。それなら少しくらい甘えてもいいかもしれない。

「じゃあ、行ってみようかな」
まだここに居ていいという安堵感や、猫と触れ合える楽しみだったりだとか。こんなに焦る彼を見るのが初めてで面白いからなのかな。

笑顔が自然に漏れて言葉を発するこの感覚。
何だか少し懐かしい気持ちになって、いつもよりも心がふわふわしている気がした。

少し上にある彗の方を見上げると、なぜか目を軽く見開いてすぐにふわっとした笑みを浮かべていた。
また見たことのない表情。
でも何だか今回の仮面は無表情なのに少しだけ…ほんの少し口角が上がっているようにも見えた。
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