花火のように咲く、君の笑顔が見たいから

学校に着くと、教室は冷房が効きすぎていて、汗ばんだ体には逆に冷たすぎるくらいだった。
隣にいる唯は「はぁー涼しい、最高…」と満足げに息をつくけれど、その視線は熱っぽくある生徒に向けられていた。彼女の視線の先には、星崎彗の姿がある。

「彗、おはよー！」
「…はよ」

挨拶というには名ばかりの無気力な返事。それを見ているとどうしてこんな人がモテるのかと少し悔しくなる。

私は小声で唯に尋ねる。
「ねぇ唯、あれのどこがそんなにいいの？」
「ええ？！そんなの決められないよ…全部がいいんだもん！めちゃくちゃ推せる！」

唯の顔と仮面はどちらもにやにやしていて、すっかり夢中になっているようだ。彼女が幸せならそれでいいかと、私はそれ以上深掘りするのをやめた。

「想乃、おはよー！」

ふと名前を呼ばれて振り向くと、クラスメイトのりのんがいた。私は軽く「おはよう」と返したが、彼女の顔を見て少しドキッとする。彼女の仮面は赤く染まっていて、怒りを隠せないような表情だったからだ。

この独特な感覚。私にしか分からないこの不快な雰囲気…いつまで経っても慣れないし、苦手だ。
誰もが何かを隠して生きている。それが当たり前なのに、それを目の当たりにすると少しだけ気持ちが沈んでしまう。
無視できればいいのに放っておけなくなってしまうのが私の悪い癖だ。

誰かの為の優しさではない。自分の為の保身がいつまで経っても染み付いている。

「りのん、何かあった？顔色よくないじゃん」
「え…なんで分かったの？！私が昨日彼氏と喧嘩したこと！」

彼女は少し驚いた顔をしたけど、すぐに表情をほころばせて彼氏の愚痴を語り始めた。

ほっと心が軽くなる。りのんはいつも教室で彼氏の話をしているし、喧嘩も日常茶飯事だ。声が大きい彼女の話は、教室中によく響く。

「えー、それはひどいね。りのんのせいじゃないよ」

私はいつものように優しげな仮面を貼り付け彼女の話に共感する。だってそうすれば、嫌われずにすむから。