花火のように咲く、君の笑顔が見たいから
部屋のドアをすぐに閉めて、クローゼットを開いた。
服の準備、それに生活用品もリュックに詰めないといけない。部屋にある物からまず準備をしようと思っていたその時にふとある物が視界にはいる。

それは幼い頃お祭りに行った時に撮った写真だった。
私とお母さん、お父さんが楽しそうに笑顔を浮かべている写真。こんなものを今も飾っている自分に笑えてきてしまう。
もう…こんなものはないというのに。

「…馬鹿らしい」
私はそっとその写真を伏せて視界に映らないようにして再び準備に集中した。
ある程度進んできたところで、部屋のドアが数回ノックされる。

「はい」
何事かと自らドアを開けると、そこには私の目線よりも低い場所に泣き崩れたお母さんがいた。

「ぅあっ…想乃、さっきはごめんね。あんな事ほんとは思ってないからねぇ…うゔ」

「……うん。大丈夫だよ」

お母さんの仮面は青や黒が入り交じっていて、悲しそうな表情をしていた。でもよく見ると赤色もまだ少し残っている。きっとここで言い返そうものならまた怒号を飛ばされるのだろう。

「ありがとう…想乃は優しいね。うぅ、ありがとね…」
まだ涙をぼろぼろと流しながらお母さんは私を強く抱きしめてきた。
だからもう"優しい"なんて言葉は聞き飽きたって、言ってるじゃない。
抱きしめられている間も、私の腕は無気力に垂れ下がっていて同じように腕を回すことはできなかった。

引き攣る口元をなんとか持ち上げて「もう大丈夫だよ…お母さん」と返す。
私の肩から離れていく手は少しだけ震えていた。

よくあることのはずだ。自分勝手に怒って、泣いて、縋ってくる。けれど今日のお母さんの表情を思い出すとその日の夜はよく眠れなかった。
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