花火のように咲く、君の笑顔が見たいから
「はぁ、彗か…」
ほっとすると同時に驚かせないでよ…と心臓がまだバクバクと激しく脈打っているのが分かる。

「なんだよそれ。俺じゃない方がよかった?」
そう言って私の隣に腰かける彼に「そういう訳じゃないよ」と返す。ここに来たということはもしかして彼も眠れないのだろうか。
そういえばまだ今日のお礼を言えてないことに気付く。

「さっき探してきてくれて…ありがとう」
彗は、私の言葉に少しだけ驚いた表情を浮かべるもすぐに「あぁ」と短い返事をした。
しばらくの間、二人とも言葉を交わさずただ夜空の美しさに見入っていた。
夜の空気は心地よくて星々が輝く静かな時間が流れていく。

「彗も眠れなかったの?」

私は少し気になって問いかけてみた。
「まぁな」と彗は肩をすくめた。

「想乃はなんでこんなとこいんの」
「なんとなく…さっきのこともあって、少し冷静になりたかったんだ」と私は答えた。

彗は私の方を見て「そっか」と静かに頷いた。
なぜかここでは、少しくらい気を抜いてもいい気がして考えていたことをありのまま伝える事にした。

「私…私さ、相手の気持ちを分かったフリしてるだけでほんとは全然分かんないみたい」
彗は黙ってなにも言わずに聞いてくれる。私もそれに合わせて話を続けた。

「私は、りのんのことも宙くんのことも…皆のことなにも知らない」
彗はそんな私を見てから、ゆっくり口を開いた。

「そんなん俺も分かんねーよ」
その言葉に一瞬目を見開く。

「人の気持ちなんて分かんないだろ。相手がなに隠してんのかも、言われなきゃ気付けない」と彗は続けた。

「じゃあ…もし、相手の感情が一目見て分かるとしたら?色とか表情がね浮かび上がるの」

こんなこと言ってはいけない。私の仮面のことを気付かれてしまうかもしれない。分かっているけれど、聞かずにはいられなかった。
彗は一瞬考えたあと、また口を開いた。

「見えたとしても…意味ない。それで感情を伝えてたってそいつの本当の気持ちなんて本人しか知らないんだ」
そう言った彼の表情は思っていたよりも真剣だった。
"本人しか知らない"か。確かにそうだ。
私は仮面を見て人を判断してきたけれどそれが全てではない。その中に込められた想いは誰にも分からない。

「…すごいね、彗は」
つい笑みがこぼれてしまう。きっと私なんかよりもずっと、もっと優しい人だ。
< 53 / 91 >

この作品をシェア

pagetop