花火のように咲く、君の笑顔が見たいから
宙くんと話していたら、思ったよりも時間が過ぎていたみたいで急いでバスへと向かう。

「はぁはぁ…早くしないと」
「おせーよ」
息を切らして走っている最中、突然低い声が聞こえてきて、私は心臓が跳ねるほど驚いた。
前を向くと、そこには冷静な表情の彗が立っていた。

「え、彗…なんで」
もうバスの中で待っていると思っていた彼が、どうしてここに?その理由が気になりつつも、何も言えずにいる私に「ほら、行くぞ」とそのまま自然に腕をひかれる。
バスが見えてきて、もうそろそろ着く頃に今まで無言だった彗が口を開いた。

「壊せたか?」
私はその言葉に目を見開く。彗は私が答えを出すのを待ってくれていたんだ。

「ううん…でも、まだ頑張りたいと思ったよ」
心が折れかけていたけれど、まだ諦めるときではないと分かってる。

『君は優しいから大丈夫』
励ましをくれた人がいるから。まだ私はヘルメットをとってすらいない。地面にぶつかる前からできっこないって考えてたら、私はなにも出来ない。

「…うん」
彗は短く返事をすると、私を少し振り返りながら先にバスに向かった。その後ろ姿はどこか満足そうで、ふと彼の口元がわずかに上がっているのを見逃さなかった。
彗もまた、私の一歩を見守ってくれているのだと感じて心が自然と落ち着いていく気がした。
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