花火のように咲く、君の笑顔が見たいから
そんなことを考えているとタオルを持った彗が戻ってくる。
かと思えば、何も言わずにタオルをばさっと私にかけてきた。少し乱暴で、肩にかけたタオルがずれそうになるけれどその適当さの中にも不思議と温かさを感じる。

「ちょっと…雑すぎない?」
私が苦笑いしながらそう言うと、彗は無言でタオルを取り直して今度は私の頭にかけると軽く拭き始めた。

「…文句言うな」
彼の言葉は少し照れ隠しのように聞こえて、私の心に小さな笑みが浮かんだ。優しくて不器用な手つきが、少しだけ心地よかった。

「ほら、とりあえず部屋行くぞ」
彗がタオルで私の髪を軽く拭き終わると、部屋へ向かうように促される。
けれど私は気がかりなことが一つあった。

「…おばあちゃん家にいるよね?私、入っちゃって大丈夫なのかな?」
私は少し気を遣ってそう聞いた。こんな時間に他人の家に上がり込むのはどうなんだろうと、少し不安になってしまう。

「別にいいだろ。ばあちゃんもう寝てるし、気にするな」
彗は軽く肩をすくめて、特に気にしていない様子で答えた。そのあっさりした態度に、私の胸の奥にあった小さな不安が少しだけ消える。
居場所なんてないと思っていた感情が少しずつ消し去られていくような気分になってしまう。
焦って家から出ていったせいで、生憎スマホも持ってきていない。けれどそれが今になって良かったと思う。

両親からの連絡に怯えることもなく今だけは…少しだけ安らぎの時間がもらえるから。
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