花火のように咲く、君の笑顔が見たいから
彗の部屋につくと、やっぱりそこは殺風景で。けれどそれが今の私にはひどく落ち着くように感じた。

「それで…なんかあった?別に答えたくなかったらいいけど」

ベッドに腰をかけながら思っていたよりも軽い口調で彗に問いかけられる。
一瞬家族のことを言っていいのか躊躇ったけれど、彗ならいい気がしてしまう。それに今は…誰かにこの気持ちを聞いてほしかった。

「…私の家ね、駄目なの。喧嘩ばっかでさ、毎日毎日よく飽きないよね」
あまり重くなりすぎないように冗談交じりに笑いを含めて伝えたつもりだった。
けれど彗の方を見ると私の目を真剣に見つめて、話を聞いてくれていた。
それだけでじわっと涙が滲みそうになってしまう。慌ててなんとかそれを抑えながら私は話を続けた。

「それで、今日帰ったら離婚みたいな話になっててね。でも私頑張りたくて…っ、本音を伝えたら分かってくれるかもって勝手に考えて…」

話しているうちに先程の光景が蘇りまた涙が溢れそうになる。そんな時、ふわっと頭に優しい温もりを感じた。それは彗の手だった。
そっと私の髪に触れる彼の手は、まるで私の壊れそうな心を包み込むように優しかった。

「…うん」
彗の声は小さいくて、でもしっかりと私に届いた。
彼は何も言わずただ静かに私のそばにいてくれる。気付くと、彗は少しだけ私の肩に寄り添ってくれていた。
言葉よりも、その何気ない仕草が私を落ち着かせてくれて余計にどんどん涙が溢れてしまう。

「ごめっ…止まらなく、て」
涙が止まらなくてみっともない。迷惑をかけてしまうかもしれない。そう思っても、涙腺が壊れたかのようにもうどうにもならなかった。

泣き顔を見せたくなくて顔を隠すように手を上げると、彗が静かに私の肩を引き寄せる。

「もういいよ。無理しなくていいから」
彼の言葉は穏やかで、優しくて。その低く落ち着いた声に、私の心の中で今まで抑えていた感情が一気に溢れ出した。

「っ…うあぁ、もう分かんないよ。どうしたらいいのか分かんないの、変われるかもって思えたのに…!」

こんな気持ち誰にも言えなかった。辛くて、苦しくて…本当は誰かに打ち明けたかった。
家族のことで「昨日こんなことがあってさ」って笑い話でもいいから、友達に話せたらよかったのにって何度も何度も思った。

でも怖いの。不幸自慢に思われるかもしれない。嫌われるかもしれないって思うと…唯にさえも、ずっと。

けれど彗は何も言わずただそっと私を支え続けてくれていた。ただ、そっと私の肩に手を置いていつもと同じ静かな顔でここにいてくれる。
その優しさが、心の中にじわりと染み込んできて絡まっていた感情が少しずつほぐれていくのが分かる。
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