花火のように咲く、君の笑顔が見たいから
私たちは改めて向かい合って椅子に座った。

少し不安そうな表情を浮かべながらも、決心がついたかのようにお母さんがまず口を開いた。

「あのね…想乃がでていった時すごく不安だった。でも私のなかで怒りがまだ残っているのも分かってたの」

その言葉を聞いて、きっとお母さんのなかにも多くの葛藤があったのだと感じる。

「そんな時にね、ある男の子がうちにきたのよ」
「…え?」
話を続けるお母さんから聞こえた言葉につい声が漏れてしまう。男の子…ってもしかして。
点と点が繋がるように感じる。夜中に起きた時に近くにいなかった彗の姿。

そこからの出来事をお母さんは思い出すように語り始めた。

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「俺は…想乃さんの友人です。少しでいいので話を聞いてください」
顔も知らない人に急に話しかけられて、最初は追い返した。でもその真剣な眼差しを見ていると無視することはできなくなってしまう。
想乃から友人の話すら私達は聞いてなかったんだなと心のどこかで感じながら話を聞いた。

「彼女の話を、聞いてあげてくれませんか」
第一声に聞いた彼の声は真っ直ぐだった。けれど初めて会ったにも関わらず、急に伝えられた言葉についイラッときてしまう。

「はぁ、急になによ。そんなことを言いに来たの?」

「…俺は彼女の一部分しか知りません。でもあなた達は彼女の辛さを知っていますか。彼女がもつ苦しみに気付いていますか」

「っ!そんなの…」
本当は分かっている。私たちが想乃に窮屈な思いをさせてしまっていることは。

彼は立て続けに口を開いた。

「親は子供にとって全てなんです。どれだけ嫌なことされたってどこかでは愛してほしいと思ってしまう。その気持ちを、あなた達は知っていますか?」

「私だって…こんなことしたくてしてるわけじゃ!」

「したくてしてるわけじゃない__なんて関係ない。苦しい思いをしてる人がいます。彼女が泣きたいのをこらえて頑張ってる姿を見てきてます」

彼は一度息を吸ってから、先程よりも声をあげた。

「だから…だからどうか__聞いて、話してください。辛い思いをさせると分かるなら自分達がするべきことを考えてください。お願いします」

その声は誠実で、何も言い返すことはできなかった。
深く頭を下げている彼の姿を見ていると私たちなんかよりもきっと、想乃のことを見てくれていたんだと悔しいけれど分かってしまう。
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