花火のように咲く、君の笑顔が見たいから

君の気持ちを咲かせて

朝の光がカーテン越しに差し込んで、私はベッドの上でぼんやりと天井を見上げていた。
お母さんとの話から数日が過ぎ、家の中には静かな時間が流れている。少し前までの張り詰めた空気とは違って、どこか穏やかな気配が漂っていた。

お母さんは、今週中には入院の準備を終えるつもりらしい。まだ完全に寂しさが消えたわけじゃないけれど、もう喧嘩が起こることはないという事実に少しだけホッとした自分がいることに気づく。

「よし…」

私は思い切ってベッドから体を起こし、制服に袖を通した。今日からは普通の日常が戻ってくる、そんな予感がしていた。

「おはよう、想乃！」

「おはよう、唯」

唯も試合を無事終えて、今日からは一緒に登校できるようになったのだ。
唯の明るい声に自然と笑顔がこぼれる。
学校に向かう道中、そこにはいつも通りの景色が広がっていた。友達同士で楽しそうに話している声や、朝の挨拶が聞こえてくる。
こんな風景を見て心が落ち着くのも…彗のおかげだ。
彼が私の背中を押して家族との関係を修復できたからこそ私は今こうして笑っていられる。

そんな時ふと、唯にはこのことをまだ伝えていなかったことを思い出した。
大切な友達だ。でも仮面のことも家族のことも何も言えてなかった。今なら少しは…言ってもいいかな。

「…唯！あのさ！」
「ん？どうしたの、想乃」
思い切って声を出したことによってつい大きくなってしまう。けれど唯は笑顔で耳を傾けてくれた。

「私実はね…」
改めて話すのも少し気恥ずかしいけれど私は今までの家族との関係について伝えた。

「…」
全てを伝えると唯は無言で目を見開いて固まっている。その表情に少しドキッとしながらやっぱり重かったかな…と心配になってきてしまう。
けれど次の瞬間、驚いた唯の声が聞こえてきた。

「そ…そんなことあったの？！言ってよぉ、大変だったね想乃…えらいよく頑張ったよ」

唯は心配そうな顔をして私を見つめて頭をわしゃわしゃと撫でてくる。私なんかよりもよっぽど泣きそうな顔をしている唯につい笑いがこぼれそうだ。
その瞳には優しさがあふれていて、やっぱり唯に言って間違いじゃなかったなとほっとする。

「うん…ありがとう。これからは何かあったら唯に相談する！その時は、聞いてほしいな」

唯は私の言葉大きく頷いて、にっこりと笑った。

「当たり前じゃん！今日は何か楽しいことしようよ、少しはリラックスしないとね！」

その言葉に、私は小さく笑いながら頷いた。
そうだ、こんな風に少しずつまた普通の日常に戻っていくんだろう。
そんな安心を覚えていると、目の前のを出来事に目を見開いた。

ぱりん。

「え……？」

唯の仮面が…壊れたのだ。
今まで仮面が割れる瞬間なんて見たことがなかったから、何が起こったのか一瞬理解できずに戸惑ってしまう。
でも、きっとこれは…。

「どうしたの、想乃？顔色悪くない？」

唯の心配そうな声にハッと我に返る。
私は無意識に唯の顔をじっと見つめていたらしい。

「いや、なんでもないよ。ただ…唯、本当にありがとうね」

私は微笑んでみせたけど、頭の中では仮面のことがぐるぐると回っていた。
今仮面が壊れたのは、私が本当の気持ちを伝えたから？それとも、唯が私の心を理解してくれたから？それともその両方？

これまでずっと見えていた仮面が、どうして突然壊れたのか。その答えを探しながらも私はなぜかあまり不安は抱いていなかった。
今までならきっと仮面が見えなくなったらどう生活すればいいか分からなくなっていただろう。
けれど今は逆に、なんだか気分が清々しかった。