花火のように咲く、君の笑顔が見たいから
そういえば…とふと彗の無表情の仮面もまだ壊れていないことに気付く。そしてそれと同時にひびが前よりか少し大きくなっていることに気がついた。

一体何が彼をそうさせているのだろう?どうして、彼の仮面は私の目からなくならないのか。彼の仮面は変わらないのか。彼の仮面は…。

疑問が次々と頭に浮かぶと同時に、彗の冷静な顔が少しだけ硬くなった気がした。

「…どうかしたか?」
不意に彗の声が響く。彼の声には、いつも通りの優しさがあるのにどこか寂しさが混じっているように感じた。

「あ、ううん、何でもない…」
私はすぐに首を振った。彼の仮面に触れたことに気づかれたくなかった。何か、聞いちゃいけないような気がしたから。

でも、心の中では彼のことが気になって仕方なかった。確信なんてもてない、けれど彼の仮面が私と同じようになにかを塞ぎ込んでしまっているのなら。

もしそうだとしたら…私は彼になにをしてあげられるだろうか。

「想乃、お前、本当に大丈夫か?」
彗が少しだけ眉をひそめて私をじっと見つめる。
その視線に心の中を見透かされそうで私は一瞬目をそらしてしまった。

「うん、大丈夫…だけど、彗は?」
思い切って私は彼に聞いた。いつも自分のことを気にしてくれる彼だけど、彗自身はどうなのか。
彼の心の奥には何があるのか、知りたいと思った。

「…俺?」
彗は少し驚いたように目を見開いた。
けれど、すぐに表情を戻し淡々とした声で続けた。
「俺は…大丈夫だよ。何の心配してんだよ」

でもその言葉には何か隠しているような響きがあった。彼の仮面が完全に壊れない理由が、そこにあるんじゃないかと感じてしまう。

「彗、嘘はつかないでよ」
私は彼をじっと見つめた。今までの私は彗にこんなふうに踏み込むことはなかった。
だけど今は彼の仮面が見えているからこそ、変わらないからこそ、聞かずにはいられなかった。

一瞬、彼の目が揺れたように見えた。でもすぐに彗は視線をそらし少しだけ苦笑いを浮かべた。

「…嘘なんかじゃねーよ。俺は本当に大丈夫」
そう言った彼の声はどこか寂しげで、心の奥に何かを隠しているように聞こえた。

「でも…」
私は言葉を詰まらせた。彼の心にもっと近づきたい。でもどうやって踏み込めばいいのかわからない。

彗はゆっくりと私に近づき、軽く頭を撫でた。
「そんな顔するなよ、想乃。やっと…辛そうな顔して笑わなくなったんだからさ」

彼の優しい手が、私の髪を撫でる。その言葉に胸の中がじんわりと暖かくなると同時に、胸が苦しくなった。彼の笑顔がますます眩しくて…切なく感じた。
彗の仮面のひびは確かに少しずつ大きくなっている。でも、まだ壊れきってはいない。

私は彗のことをもっと知りたい。彼の仮面の奥に何が隠されているのかどうしてそれを隠しているのか。彼はきっとそんな詮索望んでいないかもしれない。
それでも私は諦めることなんてできなかった。

そんな思いが、ますます強くなってしまう。
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