ひとりステージ
だれにも認めてもらえず、どうすればできるようになるかもわからなくて、大好きな演劇が嫌いになりそうで怖かった。

わたしはずっと、だれかに認めてもらいたかったんだ。
できてるよ、って……。

「鵜飼さんがよければだけどさ、勇劇部に入らない?」
「えっ?」

今、なんて……?

「ひとりでは気づかないことも、今日みたいにみんながいれば、気づけることもあると思うんだ。俺は、鵜飼さんのお手伝いがしたい」

「でも、勇劇部は男子限定の部活じゃ……」

「だから勇劇部なんだよ。ここにいる間は、つねに咲也になっていないといけない。鵜飼さんには役に入る才能があるから、この部活は良い訓練になるはずだよ」

良い訓練……。たしかに、今日はなぜか人前でも演技ができた。
咲也になりきることで、人に見られているという意識がなかった。
あの感覚があれば、これからも演技ができるかもしれない。

でも、たまたまかもしれない。
今日はたまたまできただけで、明日もできるかと言われたら……自信ない。

だって、もうあの感覚を思い出せないもん。
どうやって、人に見られている意識を忘れられるのか。すでにわからない。

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