ひとりステージ

「さあ。そろそろ戻ろっか」

鴻上くんが、パンッと手を叩いて言った。
わたしたちは合宿所に戻り、一番部屋が近い鳴海くんを送り届ける。

「咲也、またおれのまくらになってね」

ドアを閉める直前に、鳴海くんからそんなことを言われた。

なんだか、すっかり信頼されてしまった。
女子としては困るけど、仲良くなれたのはうれしいな。

次に近いのは、鴻上くんの二年生部屋。だけど……。

「送るよ」
と言われて、わたしの部屋へ。

ウィッグを被っているし、ジャージ姿だけど、それでも鴻上くんはわたしを女の子扱いしてくれる。
それがちょっと照れくさい。

「琉衣はすっかり、咲になついたね」
「なついたって言っていいんでしょうか?」
「あれは、なついたって言うでしょ」

なつくって犬みたい。
まあ、ちょっと犬みたいだな、とは思ったけど。

そんな話をしていると、あっという間に部屋に着いた。

「送ってくれてありがとうございます」
「おやすみ」
「おやすみなさい」

手をふって、鴻上くんとお別れする。

ふしぎ。「おはよう」とちがって「おやすみ」って、どうしてこんなに特別感があるんだろう。
時間帯がちがうだけで同じあいさつなのに、おやすみのほうがドキドキする。

「あ、そうだ」

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