ひとりステージ

ふと、顔を上げると、衣装室のプレートが見えた。

衣装室とは、授業や部活動のときに使う衣装が置いてある部屋。
制服はもちろん、和服、ドレス、制服、着ぐるみなどたくさんの衣装が置いてあって、名前を記録すればだれでも自由に借りられる。

わたしは、その衣装室のドアノブに手をかけた。
と、そのとき。わたしが引くよりも先にドアが開いた。

「おっと、びっくりした。ごめんね、鵜飼さん」

中から出てきたのは鴻上(こうがみ)友也(ともや)くんで、胸がドキンと跳ねた。

鴻上くんは、学年一……ううん、学校一の人気者だ。
太陽のようなオレンジ色の髪の毛が特徴的で、アイドルのような正統派な顔立ちが女子を引きつけ、明るい性格が男子を引きつけている。

同じ演劇コースの二年生だけど、わたしとは別世界で生きているような人。

「いえ、こちらこそごめんなさい」

鴻上くんは急いでいたようで、さっさと廊下を駆けていってしまった。

びっくりしたなぁ。
ぶつかりそうになったのが鴻上くんというのもそうだけど、鴻上くんがわたしの名前を知っていたことにも驚いた。

芸術の授業は学年単位で受けるので、鴻上くんとはクラスはちがうけど知った仲。
でも、わたしは地味に過ごしているから、知られてなくてもふしぎじゃなかった。

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