ひとりステージ
あの鴻上くんに、まさか知られているとは……。ちょっとうれしいな。
好きな動画配信者に、コメントを読んでもらったときのような気分。

まあ、悪い意味で知られてるのかもだけど。

……自分で言ってて、ちょっとつらくなっちゃった。


気を取り直して、衣装室に入る。
教室よりも広い部屋。ところせましと衣装がハンガーラックにかかっているのは、けっこう壮観な光景だ。

ここには、わたしが変装するための道具がたくさんある。
変装とは、服や道具を使って見た目を変えてしまうこと。

これは、自分で編み出した、緊張を克服する方法のひとつなんだ。

自分ではないだれかになれば、少しは人前に出られるようになるかな?
そんな思いつきで始めたことだけど、これが案外、楽しくてクセになっている。

「よし、できた」

試着室に入って、着がえ終わったわたし。
鏡には、わたしじゃない人物が映っている。

肩に触れる暗い色の髪、ピンク色のカーディガン、白色のブレザー、すその部分にラインが入ったスカート、演劇コースを示す青色のネクタイ。
それが、わたしのふだんの姿。

けれど今は、ショートヘアのウィッグを被って、学ランを着ている。
どこからどう見ても、他校の男の子だ。だれも鵜飼咲花だってわからない。

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