シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました

出会い

 ⽴⽯⼀花の朝は早い。
 フラワーデザイナーの彼⼥はイベントのディスプレイの仕事を頼まれることが多く、当然イベント開始前までに装飾を終えないといけないから自然と早朝の作業になる。
 今⽇も四時に起きた⼀花は⼿早く朝⾷を済ますと、ディスプレイに使う花の準備を始めた。
 住居兼事務所兼倉庫代わりに借りた築五⼗年の平屋の⼀番広い居間に買い付けた花を置いているから、利便性がいい。
 台⾞に⽔を張った什器を乗せ、花を⼊れる。それを慎重にワゴン⾞に運び、倒れないように固定する。
 花鋏はもちろん、ワイヤーやグルーガンなどの道具セットも⽤意し、完成図は頭に⼊っていたが、デザイン画も念のため持っていく。
 それだけで結構な重労働で、秋⼝のまだ暑い中の作業に汗が噴き出す。
 額の汗を拭って、⼀花はうなずいた。

「よし、準備オッケーね。頑張ろう」

 気合を⼊れて、⾞に乗り込む。
 本⽇の依頼は、藤河エステートの開発した商業施設のオープンに合わせて、ショップの店頭を飾るというものだ。
 話題の場所に⾃分の装花が飾られると思うと、わくわくしてしまう。
 新規のお客様で、独⽴したばかりの⼀花にとって、師匠の筋からではない依頼はことさらうれしい。
 うきうきしながら、都⼼の商業施設まで⾞を⾛らせた。
 それなのに――。

「Green Showerさん? 登録にないですね。⼊館証もお持ちでない? それなら⼊館できません」
「え、どういうことですか?」

 ⾞から花を下し、重い台⾞を施設の搬⼊⼝に押していった⼀花は守衛に⽌められていた。
 通⽤⼝に⽴っていた守衛はリストをチェックして、そっけなく⾔う。
 ⼀花は驚いて、⽬を瞬いた。

「どうもこうも、申請されていないから⼊れないんですよ。そもそも、花関係はここのテナントのフラワーショップが⼀⼿に引き受けているはずなんですが」
「そうなんですか? お客様に連絡してみます」
「そうしてください」

 当然のことながら、⼀花がこの時間に来るというのは依頼主に伝えているのに、それが守衛に伝わっていないようだ。
 慌てて、電話してみる。早朝なので、繋がらなかったらどうしようと思いながら。
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