シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
「わっ」

 服装に合わせて下していた髪の⽑が⾵で舞い上がり、⼀花は声を上げた。
 慌てて⼿で髪をまとめる。
 オープンカーだから、まともに⾵を受けてしまうのだ。

「あぁ、悪い。ルーフを閉めようか?」
「いいえ、⼤丈夫です。せっかく気持ちいいから、このままで」

 オープンカーなんて初めて乗ったが、颯⽃の⾔う通り、快晴の今⽇は⾵が⼼地よく、この⾞が合っている。
 ⼀花は吹き抜ける⾵に⽬を細めた。

「⾵でヘアスタイルが乱れると嫌がる⼥性が多いんだがな」
「こんなにさわやかなのにもったいない。髪なんてくくればいいんです」

 そう⾔って、⼀花はシュシュで髪をまとめた。
 そんな彼⼥を横⽬で⾒た颯⽃はくくっと笑い、おくれ⽑を指にとって⼀花の⽿にかけた。
 驚いて彼を⾒るが、颯⽃は⾃分の⾏動をなんとも思っていないようで、⼝元に笑みをたたえながら前を向いている。

(こんな素敵な⼈なんだから、何⼈も隣に⼥性を乗せたことがあるんでしょうね)

 恋⼈に対するしぐさがつい出てしまったのだろうと⼀花は思った。
 それか、恋⼈設定の演技の⼀環だと思って、早くなった⿎動を鎮めようとする。
 嫌がらせ犯がこれを⾒ていたら、完全に⼆⼈は付き合っていると思うだろう。
 それほど颯⽃の演技は⾃然だった。

(今までどんな⼈がここに座ったんだろう?)

 ふと考えた⼀花の胸の奥がなぜだかちくりと痛んだ。
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