シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
 幸い、電話はすぐ繋がった。

「Green Showerの⽴⽯と申します。マチュアの須堂さんのお電話でよろしいでしょうか?」
「はい」

 そっけない男性の声が戻ってくる。いつもはもう少し愛想がいいのに、めんどくさそうな対応に嫌な予感がしつつも事情を話す。

「本⽇、ご依頼いただいた貴店の店頭ディスプレイに伺ったのですが、業者の申請がされてなくて、入館できないのですが」
「あぁ、それね。ディスプレイはすべて、そこに⼊ってる店に頼まないといけなかったんだよ。⾼いから嫌だったんだけど、例外は認めないと⾔われてさ。だから、悪いけど、キャンセルね」
「そんな、困ります! もうお花も⽤意しているんです」
「そんなこと⾔われても、飾るところがないんだから仕⽅ないだろう。じゃあ、失礼するよ」

 なにも⾔い返せないうちに、ブツッと電話が切れた。

「ちょっと……!」

 唖然とスマートフォンを⾒つめ、⼀花は固まる。
 デザインを何回もやり直しさせられ、決まったと思ったら値切られて、実績になるからと⾃分を納得させて引き受けた案件だった。

(もう少し早く⾔ってくれたら、お花もキャンセルできたのに、ひどいわ!)

 施設側からNGが出たのなら、その時点で⾔うべきだろうと憤る。
 スマートフォンを握りしめた⼿が震えた。
 近いうちにこんなに⼤量の花を使う依頼はないから、台⾞の上の綺麗な花たちは⾏き場を失って、ほとんどのものは破棄するしかない。
 費⽤をかぶるのもつらいけど、花を活用できないのが⼀番悲しかった。

「藤河エステートならちゃんとしてると思ったのに……」

 思わず、恨みがましい声が漏れてしまう。
 そこへ後ろから声が聞こえた。

「それは聞き捨てならないな」

 驚いて振り返ると、仕⽴てのいい三つ揃いスーツを着た⻑⾝の男性が⽴っていた。
 三⼗代ぐらいの⾃信に満ちたその顔は理知的で端整だ。
 ⼝端を曲げ、挑むような笑みを浮かべている。

「副社⻑、お疲れ様です!」

 守衛が急に姿勢を正したのが⽬の端に映る。
 ⼀花は守衛と彼を交互に⾒た。

(副社⻑?)
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