シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました

デートっぽい

 ⾼い空の下、きらめく⼀⾯の⻘い海は美しく、⼀花は⾵に乱れる髪を押さえながら⽬を細めた。

「寒くないか?」
「はい。⼤丈夫です」

 そう答えた拍⼦に、砂に脚を取られてふらつく。
 颯⽃が肩を抱いて⽀えてくれた。

「あ、すみません」

 パンプスで来るところじゃなかったなと⼀花が苦笑すると、颯⽃も同じことを思ったらしく、⼿を差し出した。

「その格好じゃ、歩きにくいな」

 ⼿を取られて、砂浜を歩いていく様はまるで恋人同士のデートみたいだと⼀花の胸は⾼鳴った。そして、すぐ⾃分を諫める。

(恋⼈のふりをしてるんだもん。当たり前だわ)

 今も嫌がらせの犯⼈は⾒てるのだろうかと、なにげなく周囲を窺うが不審な⼈物はいない。
 どこまで恋⼈のふりなんだろうと思い、聞けずに⼀花はそっと⽬を伏せた。
 海を堪能してから、今度は⾞でヨットハーバーに隣接した商業施設に⾏き、着替えなどを買う。
 ちょうど⼣暮れにさしかかり、並んだヨットの背景に⻘紫やピンクに彩られた空と海が⾒えて、ロマンティックな光景を作っていた。
 海岸でのように⼿は繋いでいなかったが、颯⽃は気軽に⼀花の腰を持って誘導したり、肩に⼿をかけたりするので、彼⼥はドキドキしっぱなしになる。

(颯⽃さんはどう考えてるんだろう?)

 ちらりと横⽬で窺うが、彼はいたって⾃然体だ。
 こんなに素敵な彼なのだから、女性から誘われることも多いだろう。⾏きずりでベッドをともにするなんて、彼にとってはよくあることなのかもしれない。彼を拒む⼥性なんてほとんどいないだろうから。⼀花だってそうだった。

(恋⼈のふりついでに、そんな雰囲気になったから?)

 考えてみたら、あの状況は彼にとって据え膳だったかもしれない。異性の前で下着もつけず薄い布だけをまとった姿は無防備すぎたと反省した。誘ってると誤解されたのかもしれないとも思う。

(違うのに……)

 一花は唇を噛んだ。
 そんな彼女の思考を颯⽃の声がさえぎる。

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