シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
「昼に洋⾷を⾷べたから、夜は和⾷にしないか?」
「いいですね。お刺⾝とか美味しそうです」
「葉⼭は海の幸だけでなく⼭の幸も豊富だから、地元の⾷材をうまく料理する店があるんだ」
「それは楽しみです」

 ⼀花の許可を取ると、颯⽃は電話で店の予約をした。
 彼が気軽に話すので、⼀花は地元の居酒屋的なものを想像していたら、連れていかれたのは⼭側にある隠れ家のような⼀軒家の料亭だった。

(高級そうなお店……)

 席に案内されながらなにげなく周囲を窺う。
 センスあふれる内装のあちこちに⼩さな花が飾ってあるので、⼀花はついチェックしてしまった。
 飲み物のメニューはあるが、料理のほうはなく、会席料理⼀択のようだ。

「なにかお飲みになりますか?」

 店員に聞かれ、⼀花は颯⽃を⾒る。

「颯⽃さんがお酒を飲まれるなら、私が運転を代わっても……」

 ⼀花は⾔いかけて、あの⾼級⾞を⾃分が運転して事故でも起こしたら⼤変だと気づき、慌てて⾸を振る。

「やっぱりだめです」
「そうだな。今⽇は⽌めておこう。ここは⽇本酒も美味しいものを揃えてあるんだが、また今度にしよう。あぁ、でも、君は飲んでもいいんだぞ?」
「いいえ、⼀⼈で飲んでもつまらないですし」

 お酒は嫌いではないが、⼀⼈で飲むほど好きなわけでもなく、⼀花は遠慮した。
 彼⼥の答えに、颯⽃が聞いてくる。

「君は酒が飲めるのか?」
「はい。ほどほどにですが」
「それなら、あとでホテルのバーにでも付き合ってくれ」
「わかりました」

 ⼆⼈はお茶を頼んで、料理を味わうことにした。
 料亭ということで⼀花は緊張したが、店員はとても感じよく、思ったよりリラックスできる。
 料理はどれもこだわりの器に美しく盛りつけられ、繊細な味で美味しい。
 途中で萩真薯が出てくる。
 秋の七草の萩の花に⾒⽴てて、真薯に⾞エビ、銀杏、⼩⾖を混ぜて蒸してあるのだと説明を受け、⾚と⻩緑と茶の⾊合いが綺麗だと思う。

(勉強になるわ)

 器の使い⽅や盛りつけの⾊彩や配置が装花に⽣かせるかもとしげしげ⼀花が眺めていたら、颯⽃がくすりと笑った。

「熱⼼だな」
「あ、ごめんなさい」

 ⾒てばかりで⾷が進んでないことに気づき、⼀花は慌ててぱくりと萩真薯を⾷べる。
 絶妙な味加減で、素晴らしく美味しかったのに、次の颯⽃の⾔葉にむせそうになる。

「いいや。そういうところも嫌いじゃない」

(嫌いじゃないって、どういうことよ!?)

 ⼀花は⼼の中で叫ぶ。
 でも、⼤した意味はなかったようで、颯⽃は鯛の刺⾝を⼝に⼊れ、⾆⿎を打っている。
 ⾃分だけが振り回されているようで、少し納得がいかない⼀花だった。
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