シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
 翌朝⼀花が⽬覚めたら、颯⽃の腕の中にいた。
 腕枕され、もう⼀⽅の⼿は彼⼥の腰に回され、脚まで絡められている。
 ⼀花の⼿は彼の硬い胸板に触れていた。
 ぱっと顔に⾎が上って、慌てて離れようとするが、⾝動きが取れない。
 じたばたしていると、颯⽃が⽬を覚ました。
 ゆっくりと切れ⻑のまぶたが開いて、⼀花を⾒て、微笑む。

「……っ!」

 そのやわらかな笑みに、⼀花は息を呑んで、⾒惚れてしまった。
 いつもは快活な彼がまるで愛しいものを⾒るかのように⽬を細めたのだ。
 ⼼を掴まれずにいられない表情だった。

「おはよう」

 颯⽃は固まった⼀花の唇に、チュッとキスを落として、挨拶をする。
 頬を染めた⼀花も挨拶を返した。

「お、おはようございます」

 本当の恋⼈同⼠のようなやり取りに、どこまでふりがうまいんだろうと⼀花は⼾惑った。
 その⽇は軽めの朝⾷をとって、本来の⽬的であるカフェに⾏くことにする。
 颯⽃が連れていってくれたのは、蔦の絡まる洋館だった。
 アンティーク家具を配した洒落た店内は⼥性客かカップルに占められている。

(前は誰と来たのかしら?)

 こんなところに颯⽃が⼀⼈でくるわけがないと思い、⼀花は気になってしかたなくなった。
 颯⽃が⾔っていたとおり、ここの店主はイチゴに並みならぬ思い⼊れがあるようで、メニューとともにイチゴの品種や栽培法など熱い想いを語ったリーフレットが添えられている。
 もちろん、メニューはイチゴ尽くしだ。

「やっぱりショートケーキかなぁ。でも、ナポレオンパイも捨てがたい。あ、ムースもあるんだ」
「⾷べれるなら、⼆個でも三個でも⾷べたらいいじゃないか」

 メニューを握りしめ悩みまくっている⼀花をおもしろそうに眺め、颯⽃が⾔う。
 ⼀花は情けない表情で彼を軽くにらんだ。

「魅惑的な提案しないでくださいよ。太っちゃう」
「だから太ってないからいいじゃないか。ショートケーキとナポレオンパイとムースか?」

 颯⽃が三つも頼もうとしているので、⼀花は慌てて⽌めた。

「ショートケーキとナポレオンパイだけでいいです!」
「じゃあ、俺がムースを頼むかな」

 注⽂した颯⽃は⼀花にムースを味⾒させてくれた。
 彼⼥は⽬を輝かせる。

「うわぁ、ジューシー! ムースの中にジュレが⼊ってて、イチゴの味が濃厚ですね!」

 そして、ショートケーキを⼝に⼊れた瞬間、表情がとろけた。
 ⼿を頬に当て、うっとりする。

「美味しい! これはすごいです! 今まで⾷べた中で⼀番おいしいかも! ⽣クリームがちょうどいい⽢さだし、しっとりとしたスポンジはきめ細かで溶けるようだし、その間のイチゴの⽢酸っぱさが本当にケーキに合います!」
「気に⼊ったようでよかった」

 興奮気味に⼀花が感想を漏らすと、颯⽃は満⾜そうにうなずいた。
 ⼀花は⽬をキラキラさせながら、彼に礼を⾔う。

「連れてきてくれて、ありがとうございます、颯⽃さん」
「そんなに喜んでもらえると、こちらもうれしいよ」

 颯⽃が笑うから、興奮しすぎたと⼀花は恥ずかしくなる。
 黙ってショートケーキを⼝に⼊れた。もちろん、ナポレオンパイも完⾷する。こちらはパイがサクサクで、濃厚なカスタードとイチゴの⽢酸っぱい組み合わせが最⾼だった。
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