シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
 カフェを出た⼆⼈は美術館へ向かった。
 颯⽃が⾔っていた眺めのよい美術館だ。
 そこは、海の眺望を意識して建てられたガラス壁が印象的な美術館だった。
 現代美術の展⽰をしていて、それを楽しんだあと、併設のカフェでランチをした。
 そのカフェは海を⼀望できるテラスがあり、そこで⼆⼈は⾷事をする。
 快晴の空を映した海は美しかった。
 道が混むといけないから、少し早めに帰ることにして、⾞に乗り込む。
 颯⽃は空を⾒上げ、スマートフォンで天気予報まで⾒て、ルーフは開けた。
 やっぱり開けて乗りたいらしい。
 ⼀花は笑って⾔った。

「さすがに今⽇は降りそうもないですね」
「⼆⽇続けて濡れるのは勘弁だからな。……そのあとのお楽しみがあるなら別だが」

 急に颯⽃が⾊気のある⽬で流し見てきて、スーッと一花の頬をなでた。
 なにもなかったふりをしていたのに、そんなことをされると彼女の⼼臓が⼤きく跳ねる。
 彼はすぐ前を向き、⾞をスタートさせたので、⼀花はなにも⾔えなかった。
 爽快な⾛りで、藤河邸に着くと、⼀花はお礼を⾔った。

「昨⽇から綺麗なものをいっぱい⾒て、美味しいものをたらふく⾷べて、すっごくリフレッシュしました。ありがとうございました」
「こちらこそ、楽しかったよ」

 ⼤きな⼿が、⼀花の乱れた髪を直してくれる。
 そのまま後頭部を持たれたと思ったら、彼に引き寄せられて、顔が近づく。
 キスされるのかと⾝構えたが、颯⽃は途中でとめて、⾝を離した。

「ここではやめておこう」

 彼の⾔うとおり、ここでは誰が⾒ているかわからない。
 貴和⼦や護衛に⾒られたら気まずくて仕⽅がないと思う。
 それに嫌がらせ犯には⼆⼈の親密さは充分伝わっただろう。
 ⼀花は挨拶したあと、⾃分の⾞に乗り換えて帰宅の途についた。
 この⽇を境に、嫌がらせはエスカレートした。
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