シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
 不審な彼⼥の視線に、男性は表情を改め、名刺を差し出してきた。
 先ほどの不遜なつぶやきから⼀転、丁寧な物腰だ。
 涼やかな切れ⻑の⽬がまっすぐに⼀花を⾒る。

「藤河エステートの副社⻑をしております藤河颯⽃と申します。弊社のことでなにかありましたか?」
「藤河エステートの!?」

 悪⼝を⾔ったように取られたに違いないと、⼀花は慌てた。
 ⾃分も急いで名刺を出して名乗った。

「Green Showerの⽴⽯と申します。失礼しました。御社とは直接は関係ない話なんです……」

 弁解した⼀花に対して、颯⽃は続きを促すように、意志の強そうな凛々しい眉を上げた。
 頭ごなしに怒るのではなく話を聞いてくれる気らしい。
 彼にどうにかできる話ではないとは思ったものの、会社の名前を出してしまった以上、きちんと説明するべきだと思い、⼀花は⼝を開いた。
「実は本⽇……」

 ⼀花は事実を淡々と並べ上げた。
 腹⽴たしいが、感情的になっても仕⽅がないからだ。ヒステリックになっていると思われるのもしゃくだった。
 彼は黙って聞いてくれる。

「というわけだったのです。御社のテナントということで、つい藤河エステートの名前を出してしまいましたが、御社とは関係のないことでした。申し訳ございません」

 不快な思いをさせてしまったと思い、⼀花は頭を下げた。
 相⼿の副社⻑は眉をひそめつつも、彼⼥には同情のまなざしを送ってくる。

「それはお気の毒に。マチュアは代⾦を⽀払うべきでしょうね」
「でも、⽀払ってもらえるとは思いません」
「⼝頭でもメールでも発注したのなら契約は成⽴します。裁判でも勝てる案件です」
「こんなことでいちいち裁判を起こしていたら、時間とお⾦の無駄ですよ」
「それはそうかもしれませんね。マチュアには厳重注意しておきましょう。でも、その花はどうするんですか?」
「…………」

 使い道がないので、処分するしかない花に⽬を落とし、⼀花は暗い顔をした。
 仕⼊れた⾦額も丸損になる。
 その様⼦で状況を察したようで、ふうむと顎に⼿を当てた颯⽃は、提案してきた。
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