シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
 彼について、会場の前の⽅へ移動する。
 ⼀歩進むたびに声を掛けられ挨拶を交わし、なかなか前に⾏けなかった。

(颯⽃さんも⼤変ね)

 ⼀花は⾔われたとおり、笑顔を浮かべてたたずんでいるだけだ。
 特に紹介されることもなく、相⼿も⼀花には会釈をする程度だから気が楽だった。
 でも、⼀⼈だけかまってきた⼈がいた。

「颯⽃くんもようやく⾝を固める気になったか!」

 ⼤きな声で話しかけてきたのは恰幅のいい、いかにも重鎮という⾵情のおじさまだった。
 周囲が聞き⽿を⽴てているのを感じる。

「はい、そうなんです。ようやく添い遂げたいと思える⼈を⾒つけまして」

 肯定した颯⽃は⽢い笑みを浮かべて⼀花を⾒た。
 演技だってわかっているのに、彼⼥の胸は⾼鳴る。

(いくら煽るっていっても、こんな⼤勢の前でそんなことを⾔ったらまずいんじゃないの?)

 案の定、颯⽃の返事を聞いて、納得、驚愕、嫉妬の波が広がった。
 焦った⼀花は彼の袖を引いて、たしなめようとする。
 でも、颯⽃は快活な笑みを見せるだけだった。

「それはよかったなぁ。藤河エステートもこれで安泰だ」

 ガハハと颯⽃の肩を叩くとその⼈は⾏ってしまった。
 ⾃分の結婚が会社の未来に繋がってしまう⽴場というのは息苦しいだろうなと⼀花は同情する。
 前に⼀瞬⾒せた翳のある表情や、⾞を⾛らせていると頭の中が空っぽになるという⾔葉を思い出し、そういうことかと腑に落ちたのだ。
 でも、今の彼はそんな様⼦をおくびにも⾒せず、堂々としている。

(かっこいいな)

 ⼀花は⼼の中で彼に称賛の⾔葉を贈った。
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