シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました

知りたくなかった事実

 翌⽇、藤河邸に着くと、ロマンスグレーの紳⼠が出迎えてくれた。
 颯⽃をそのまま歳を重ねたような⾵貌に誰だかわかる。

「藤河社⻑? あ、お世話になっております。私、Green Showerの――」

 ⼀花が⾃⼰紹介をしようとしたら、彼が遮った。
 丁寧だけど、業者には興味はないというそっけなさだ。

「あぁ、貴和⼦から聞いてるよ。いつも⽞関を綺麗にしてくれてありがとう。今⽇、貴和⼦は熱を出して寝ていてね。颯⽃は朝からトラブル対応で出かけてるし」
「奥様は⼤丈夫なんですか!?」
「問題ない。昨⽇はしゃぎすぎたんだろう。そういえば、昨⽇のパーティーでは颯⽃が世話になったな。おかげで、あのやっかいな令嬢をようやく排除できるよ。ありがとう」

 ⼆度⽬の礼には⼼がこもっていた。
 よっぽど彼⼥に悩まされていたようだ。

「⼤事な取引先だから、無碍にもできなかったが、あれだけ派⼿なことをしでかしてくれたから⾔い逃れもできん。助かったよ」
「お役に⽴てて、光栄です」

 にこりと微笑んだ⼀花だったが、その後に独り⾔のように付け⾜された⾔葉に笑顔がこわばった。

「これでやっと颯⽃も安⼼して結婚できるな。早く結婚したがっていたし」
「結婚……。それは、おめでとうございます。……では、装花を始めてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、よろしく。終わったらリビングにいるから声をかけてくれ」
「承知しました」

 ⼀花は装花の作業をしながら、涙がこぼれそうになるのを必死でこらえた。
 あきらめなくてはと思ってはいたが、颯⽃の⽢い態度に、もしかしてと期待する⼼もあった。
 それが粉々に打ち砕かれた。

(結婚相⼿がいたなんて……。やっぱりあれはその場かぎりのお遊びだったんだわ)

 ⼤事な相⼿を傷つけたくなかったから、⾃分に恋⼈役を持ちかけてきたのだと納得いった。
 そして、据え膳を⾷った。それだけのことだったのだろう。
 胸がつぶれそうに痛い。
 でも、装花に⼿を抜くことはプライドが許さないから、いつも以上に丁寧に仕上げた。
 装花が終わる頃には⼀花の⼼は決まっていた。
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