シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
 彼がこんなに不誠実だとは思わなかった。一花は視線を落とそうとした。
 それなのに、颯⽃は彼女の顎を掴み、まっすぐ目を合わせてきた。そして、きっぱりと言う。

「俺は君以外と結婚する気はない」
「……はい?」

 思ってもみなかった⾔葉が聞こえて、⼀花は気の抜けたような声を漏らしてしまう。
 キョトンとして、彼を⾒上げる。
 彼⼥の反応を⾒た颯⽃はハァァと深い溜め息をついて、表情を緩めた。
 額に⼿を当て、つぶやく。

「はっきり⾔わなかった俺が悪かった」
「なにを? 遊びってことをですか?」
「遊びのはずがない! 君に惹かれたから抱いたんだ。君が好きになったから。それで離したくなくなったから結婚したいと思った」
「えぇ?」

 ⾃分の⽿を疑って、⼀花は聞き返す。
 彼⼥に都合のいい⾔葉ばかりが聞こえた気がしたのだ。
 疑われているのを感じたのか、颯⽃は彼⼥の頬を両⼿で持ち、顔を近づける。
 そして、はっきりと誤解の余地なく⾔った。

「⼀花、君が好きだ」

 ひゅっと息を呑んだ⼀花は⽬を⾒開いた。

「っ……うそ……!」
「うそでこんなこと⾔うか! だいたい君は俺のことをそんな軽薄なやつだと思っていたのか?」
「そう、思いたくなかったですが、据え膳は⾷うのかなと……」
「据え膳……。そう思われてたのか」
「それに葉山以降、連絡もくれなかったし、顔を合わせることもなかったじゃないですか」
「俺だって連絡したかったさ。だが、仕事が立て込んでて、連絡できそうなのが夜遅くだったんだ。君は朝早くからの仕事が多いって言ってただろ? 起こしたら悪いなと思って連絡できなかったんだ」

 彼女に気を遣った結果の行動だったと知って、一花はほっと息を吐いた。
 避けられていたのではないとわかって、うれしくなる。

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