シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました

思わぬ依頼

「よかったら、うちのオフィスにその花を飾ってもらえませんか? 料⾦はお⽀払いします」
「え、いいんですか? 花が無駄にならないのなら、実費でいいです」
「うちのテナントが迷惑をおかけしたので」
「ありがとうございます!」

 ⽬を輝かせた⼀花は深くお辞儀をした。
 ⼼からありがたかった。
 やはり⼤企業の経営者はやることが違うと感動する。
 颯⽃はさわやかに微笑んだ。

「それでは、許可証を発⾏してください」

 颯⽃が守衛に⾔うと、あっという間に許可証のカードが⽤意され、⼀花に渡された。
 ついてくるように⾔われ、台⾞を押そうとした⼀花に、颯⽃は「⼿伝いましょうか」と⾔ってくれるが、丁重に断った。素⼈が動かすと転倒の恐れがあるからだ。
 彼に導かれて、業務⽤エレベーターに乗り、最上階へと向かう。
 エレベーターホールを出たところは、広いロビーになっていて、受付があった。
 その後ろの壁にはプレートがあり、『藤河エステート』と洒落た字体で書いてある。
 待合室も兼ねているようなその空間には、スタイリッシュなソファーが何台か置かれていた。

「ここに好きなようにディスプレイしてもらえますか?始業は九時なので、⼋時頃までに終わらせてもらえるとありがたいです」
「承知いたしました」
「それでは、私はここで。後ほど総務の⼈間をよこしますので、その者に請求書を出してください」
「はい。本当にありがとうございました」

 ⼀花は感謝でいっぱいになり、再び頭を下げた。
 ⽬もとを緩めた颯⽃は軽くうなずいて、去っていった。

「さて、どんな感じにしようかな」

 誰もいないロビーを⾒回して、⼀花はひとりつぶやく。
 マチュアはブティックだったので、⼥性客を意識した華やかなデザインを考えていた。
 担当の須堂さんの好みに合わせて、⼤柄で鮮やかな花も多くなっている。
 しかし、ここはオフィスの受付だから、そのままのデザインは似合わない。
 特に、ここは上品でシャープな印象の内装なので、それに合わせたものにしたいと思った。
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