シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
「綾部社⻑と話したんだ」

 颯⽃が⾔うには、嫌がらせを依頼していたのが、綾部物産の社⻑令嬢の世話係じゃないかと推測して実⾏犯に写真を⾒せたところ、当たりだったそうだ。
 その証⾔と、⼀花が綾部物産のせいで仕事を失ったこと、シャンパンをかけられたことを挙げて、綾部社⻑に娘をなんとかしろと迫ったらしい。次は警察沙汰にすると脅して。

「⾦輪際、君や俺に⼿出しはさせないと約束してくれたよ。さすがにあんなところで、シャンパンをかけるなんて⾏動は異常だから、カウンセリングにかかることを勧めておいた」
「そうですよね。颯⽃さんも⾒てる前であんなことして、後先考えられなくなってたのかしら?」

 美⼈だったけど、神経質に⾒えた彼⼥を思い出して、⼀花はうなずいた。
 やったことは許せないが、病気で思い詰めてしまったのかもしれないと思うと少し同情する。
 そんなことを思っていると、颯⽃が姿勢を正した。

「話は早くまとまったが、君をあんな⽬に遭わせて本当に申し訳なかった」

 颯⽃が頭を下げる。
 あのときも謝ってくれたのに、まだ気にしてくれているようだ。

(そういえば、この⼈はちゃんと謝れる⼈だった)

 そんな⼈が結婚前に⼥遊びを楽しむことなどするはずがなかったと考えて、⼀花は⾃分の思い違いを反省する。そして、⾃然と笑顔になった。

「いいえ、⼤丈夫です。煽りましょうと⾔ったのは私ですし、リアルにシャンパンをかけられる経験なんてめったにできないですよね」

 むしろおもしろいと⾔わんばかりに⼀花はあっけらかんと答えた。その頬をなでて、颯⽃が破顔した。

「そういう豪胆なところも好きだ」
「えっ! あ、ありがとうございます?」

 突然の⽢いセリフに⼀花はうろたえる。
 嫌がらせには強いのに、⼝説き⽂句にはすぐ動揺してしまう⼀花を愛しげに⾒つめて、颯⽃はキスを落とした。そのまま⼿を彼⼥の頬に当てて、告げる。

「だから、結婚したくなった。君と⼀緒に暮らせたら、楽しいだろうなと思って。それを⽗に⾔ったんだ。誤解して君に伝わってしまったみたいだが」
「じゃあ、颯⽃さんが早く結婚したいと⾔ってた相⼿は――」
「そう、君だ。初めて結婚したいと思ったんだ」

 熱っぽく語る颯⽃に、⾃分のことを⾔われているとは思えず、⼀花は視線を逸らした。
 胸がバクバクいっていて、顔が真っ⾚になっている⾃覚があった。

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