シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
「もう、颯⽃さん、順番が違いますよ……」

 両想いだとわかったばかりなのに、とても結婚のことまでは考えられなかった。
 ⼀花も結婚を考えたことはなかったのだ。
 ただ、彼と過ごす⽇々は素敵だろうなと想像するだけで、⼼が浮き⽴つ。

「そうか、まずは付き合ってくれ、からか。でも、俺は待てない。結婚してくれ」
「いつも急すぎます!」

 決して嫌ではなかった。でも、常に颯⽃に翻弄されている気がして、⼀花は抗議をする。
 それに付き合うぐらいなら個⼈の意思の範囲だが、結婚となると親や仕事や⽣活の問題が出てくる。そんな簡単に決められない。

「だいたい、ご両親は私でいいとおっしゃってるんですか? 私、たいした家柄じゃないし、颯⽃さんの役に⽴てる気がしません」
「⺟はあんな感じだから⼤歓迎だろうし、⽗には⼝を出させない。そもそも家柄なんてどうでもいいんだ。俺がそんなものに頼らないといけないと思うか?」

 いつもの⾃信満々な⼝ぶりで颯⽃が⾔うと、⼀花は思わず笑った。

「そうは思いませんが、でも――」
「君のほうのご両親は反対しそうか?」

 ⾷い気味に颯⽃が聞いてくる。
 ⼀花は両親の反応を思い浮かべてみた。
 藤河エステートの御曹司なんて連れていったら、親は驚くだろうが、⼀花の判断を尊重してくれるだろうと思う。

(結局は私の判断なのよね……)

「いいえ、⼤丈夫だと思います。でも、私、仕事を続けたいんです」
「続ければいいじゃないか。問題ない」
「え、いいんですか?」

 次期社⻑夫⼈が働いているなんて外聞が悪いかと⼀花は思っていた。しかし、颯⽃はなんの気負いもなく肯定する。
 それどころか彼⼥の懸念を吹き⾶ばすように断⾔した。

「俺の背景のことで、君になにか負わせるつもりはない。俺は君がそばにいてくれさえすればいい」

 気がかりを徹底的につぶされて、⼀花は少し黙り込んだ。
 それでもどうにも決断がつかなかった。

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