シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
「もちろん、時間があって、あなたがよかったら、ですが」

 ⾸を少し傾げて、彼⼥の意志を聞いてくる颯⽃に⾔葉以外の含みはないと⾒て、⼀花はうなずいた。どちらにしても花が全部さばけるのはありがたい。

「ありがとうございます!」

 メモを受け取った⼀花は⽚づけをして、そちらに向かうことにした。
 カーナビに指定された場所を⼊れて、着いた先は引くほどの豪邸だった。
 広いアプローチの先には⾼級⾞が何台も置いてあるガレージがあり、その横の家屋は、⽩いボーダータイルを貼った円弧状の壁を持つ⼆階建てだ。そのモダンなデザインはまるで現代美術館のように美しい。

「本当にここよね?」

 渡されたメモとカーナビの住所を⾒⽐べる。

(藤河って名字で副社⻑ってことはやっぱり御曹司よね)

 藤河エステートほどの⼤企業の経営者宅だとこれくらいでいいのかもと妙に納得して、⼀花は⾞を降りた。
 とりあえず、⾞はアプローチに停めておく。広いので、彼⼥の⾞が⼀台停まったところで、なんの邪魔にもならない。
 ⽞関のインターフォンを鳴らすと、いきなりドアが開いて、上品な中年⼥性が出てきた。

「まぁまぁ、いらっしゃい。颯⽃から聞いてるわ!あなたが来るのを楽しみにしてたのよ」

 ほがらかに微笑む⼥性はどこか颯⽃と似ている美⼈だったので、⺟親だと思われた。
 やけに歓迎されて⼾惑いながらも、⼀花は名刺を出して⾃⼰紹介する。

「こんにちは。Green Showerの⽴⽯と申します。藤河副社⻑のご厚意でこちらに花を飾らせていただけることになって。さっそくですが、こちらに花を運んでもよろしいでしょうか?」
「もちろんよ。あぁ、運ぶのを⼿伝わせるわ! 沢⽥! ちょっと来てちょうだい」

 ⼿を打って奥に呼びかけた彼⼥を⼀花は慌てて制⽌する。

「奥様、ひとりで⼤丈夫です」
「あら、奥様なんて嫌だわ。私、貴和⼦っていうの。名前で呼んでちょうだい」

 やけにハイテンションな貴和⼦にハードルの⾼いことをいきなり要求される。
 あいまいにうなずいた⼀花は⾞に戻って、花を取ってくることにした。
 いつものように台⾞に花を⼊れた什器を載せ、ゆっくりと⽞関⼝まで運ぶ。
 沢⽥と呼ばれた執事がドアを押さえてくれる。

(っていうか、執事って!)

 紹介されて、驚いた。現実世界に⽣存していたんだと。
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