シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
 ⽞関ホールは⽩いタイル貼りの床が⼋畳ほど続いている。
 そこにあるのは、造りつけのシューズボックスとウォルナットの階段だけで、飾りつけるには充分な広さがあった。

「なにかお好みの飾り⽅など、ございますか?」

 興味津々といったように⼀花の準備する様を⾒ていた貴和⼦に尋ねてみる。
 でも、彼⼥はあっさり⾸を横に振った。

「いいえ、⽴⽯さんの好きなようにやってちょうだい」

 そう⾔われるとやる気が湧いて、感⼼されるようなものを作りたいと思う。
 意欲を燃やした⼀花は、ぐるりと⽞関ホールを⾒回して、持ってきた花と⾒⽐べる。
 ぱっと完成後のイメージができて、⼟台を作っていった。
 一花は黙々と作業した。

「できました。奥……貴和⼦さん、いかがでしょうか?」

 ずっと⾒守られていて少しやりにくいなと思いつつ、なんとか飾りつけを終えた⼀花は貴和⼦に尋ねた。
 そこは⾚、⻩、緑の差し⾊が加わって、⽩い無機質だった空間から温かみのある居⼼地のいい場所に変わっていた。
 彼⼥は華やかになった⽞関ホールをうっとりと眺めて、微笑んだ。

「すばらしいわ! とても好みよ。ありがとう」

 本気で⾔ってくれているのがわかって、⼀花もにっこりと笑った。
 こんなとき、フラワーデザイナーをしていてよかったと思う。
 ぺこりとお辞儀をして、道具を⽚づけ、お暇しようとする。

「それでは、私はこれで――」
「あら、ダメよ。お茶していってくださいな。疲れたでしょう?」
「でも……」
「お忙しいかしら?」

 さみしそうに⾔う貴和⼦を⾒て、⼀花はかぶりを振った。

「いいえ、そういうわけではありませんが」
「じゃあ、お茶しましょう! ⽢いものはお好き?」

 瞬時に笑顔に戻った貴和⼦が引っ張るようにして、⼀花をリビングに連れていく。
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