シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
 リビングは⼆⼗畳はありそうな広さで、フローリングにガラステーブルがあり、それを挟んでアイボリーのソファーが半円を描いて設置してある。壁際には⾚からピンク系のオールドローズが飾ってあった。
 向かい合わせに座った貴和⼦と⼀花の間に、紅茶と数種類のプチケーキが載った⽫が置かれた。
 ⽢いもの好きな⼀花はケーキに⽬を奪われてしまう。

「どれでもお好きなのをいくつでもお召し上がりになってちょうだいな」
「ありがとうございます」

 うれしいことを⾔われるが、もじもじしている⼀花に、貴和⼦は問いかけた。

「ショートケーキはいかが? ガトーショコラは? フルーツタルトもあるわよ?」

 その反応を⾒て、貴和⼦が⽬配せすると、使⽤⼈は⼀花の⽫に次々とケーキを載せてくれた。
 こんなに⾷べられないと思ったが、⾷べ始めると美味しすぎて、⼀花はペロリと完⾷してしまう。
 貴和⼦は⼀花の⾷べっぷりにニコニコしていた。
 話していくうちに、彼⼥は⾝体が弱くてあまり外出できないから、来客がうれしいらしいことがわかった。

(だから藤河副社⻑は私を⾃宅に派遣したのかな)

 いきなり⾃宅に花を持っていくように⾔われて驚いたが、花の救済だけでなくそういった意図があったのかもしれないと思って、⼀花は彼に好感を持った。

「あのね、今⽇、⽞関を花で飾ってもらって思ったんだけど、定期的に来てくれないかしら?うちの⽞関に⾜りなかったのは花だったのがわかったから、常に飾っておきたいの」
「それでは定期装花という、週に⼀度お花を届けるサービスがございます。装花というのはこのように花を飾ることを言うのですが、今回のような規模のディスプレイであれば、⼀回⼆万五千円になります」
「そんなサービスがあるのね。ぜひお願いしたいわ」
「ありがとうございます! 喜んでお引き受けします」

 定期的に収⼊があると⼀花としても助かるので、⾮常にありがたい依頼だ。
 しかも、貴和⼦はとても感じのいい⼈で、ストレスなく仕事ができそうだから、⼀花は即答した。

「うれしいわ。それじゃあ、来週の⼟曜⽇からお願いね」
「承知いたしました」

 こんなふうにドタキャンから始まった⼀花の⼀⽇は、有意義な⼀⽇に変わったのだった。

 帰宅後、さっそく請求書を作成してメールで送ると、藤河エステートからも颯⽃からもすぐ返事が来た。
 颯⽃のメールには、『⺟が⻑時間引き留めてしまっていたようで、申し訳ありませんでした』と⼀⾔付け加えられていた。できる男は違うと感⼼する。
 また、マチュアの須堂からも謝罪のメールが来た。
 当⽇のキャンセルになって、申し訳ないという内容だったが、⽂⾯から、颯⽃に⾔われてしぶしぶ送った感じだった。
 ⾔いつけやがって、とうらめしそうな⼼情が透けて⾒えて、⼀花は苦笑した。
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