カルヴァンの予定説「イタズラ少年ニールスの話」

カルヴァンの予定説「イタズラ少年ニールスの話」

カルヴァンの予定説

宗教改革は15世紀にドイツでマルチン・ルターによって起こった。
当時ヨーロッパではローマ教皇が絶対的な権力を持っていて権力を持った人間がすべてそうであるようにローマ教皇を頂点とする教会は腐敗堕落していた。
教会は「免罪符」を買えば罪が救われると説いた。
そして「免罪符」を人々に売った。
しかしその実態は教会の金集めだった。
これに怒ったドイツの神父マルチン・ルターは人間は教会の発行する「免罪符」などを買うことによって救われるのではなく、ただ神への信仰によって救われるという内容の「95カ条の意見書」をローマ教皇に訴えた。
しかしローマ教皇はマルチン・ルターの意見を聞くどころか彼を破門した。
それまで聖書はラテン語で書かれていて一般の人は聖書を読むことが出来なくそのため盲目的にローマ教皇に従っていたがルターは聖書をドイツ語に翻訳した。
そのおかげで人々は聖書を読むことが出来るようになった。
マルチン・ルターの思想に共感するものは多くとうとうルターの思想はドイツ国民の支持を得て広まった。
さらにフランスにマルチン・ルターの影響を受けたジャン・カルヴァンという牧師で神学者がいた。
彼はマルチン・ルターの教えを正しいと思ったのはもちろんだかさらにジャン・カルヴァンはさらにこの世の中および神の御心について考察した。
それまではキリスト教はローマ教皇に対する絶対的な服従だけだった。
ジャン・カルヴァンは人間の労働について
「働くことは金儲けのための悪しき行為ではなく神から与えられた使命をなすことであり良いことだ」
と説いた。
そして。
神は全知全能である以上
「救われる人間と救われない人間は生まれた時から神によって決められている」
という「予定説」を説いた。
・・・・・・・・・
ある家庭です。
ニールスは真面目な少年です。
彼は父親母親の言うことを守り学校の勉強を真面目にやり毎週日曜日は教会に行く理想的な神童でした。
ある時ニールスは学校の授業で「カルヴァンの予定説」の話を聞きました。
しかしニールスは「カルヴァンの予定説」の意味がよくわかりませんでした。
それでその日家に帰って母親に「カルヴァンの予定説」の意味を聞きました。
「お母さん。カルヴァンの予定説ってなあに?よくわからないんだ。教えて」
「それはね。中世のローマ教皇の堕落によって免罪符が売られるようになりドイツでマルチン・ルターという人が宗教改革を起こしたの。それは知ってる?」
「うん。学校で習ったよ」
「それでね。ルターは人は教皇の売る免罪符を買うことによってではなくただ聖書に書かれているキリストの教えに従うことによって人間は救われると説いたのよ」
「うん。それも学校で習って知ってるよ」
「それでね。ドイツではマルチン・ルターの教えが広まったの。でもね。宗教改革者にはもう一人強い主張を持った人がいるの」
「それは誰?」
「それはジャン・カルヴァンという人よ」
「そのカルヴァンという人はどういうことを主張したの?」
「人間は教皇の売る免罪符を買うことによってではなく聖書に書かれているキリストの教えに従うことによってのみ人間は救われると説いたの。その点はマルチン・ルターと同じ考えなの」
「じゃあマルチン・ルターの教えと同じなんだね」
「そうよ。でもね。カルヴァンの教えにはルターが主張しなかった教えが二つあるの」
「その教えというのは何?」
「一つは働いてお金を稼ぐことは悪いことではなく良いことだという教えなの。それが今の資本主義の元にもなっているの」
「ふーん。そうなの。それでもう一つの教えは何なの?」
「それはね。予定説といってね。人間は生まれた時にすでに神に祝福されて天国に行ける人と神に祝福されずに地獄に堕ちる人はもうすでに決まっているという教えなの。だって神様は全知全能でしょ」
「ふーん。そうなの。人は生まれた時点で天国に行ける人と地獄に堕ちる人が決まっているんだね?」
「そうよ」
「じゃあ。お母さん。僕は天国に行ける人間なの?それとも地獄に堕ちる人間なの?どっちなの?」
とニールスは真剣な眼差しで母親に聞きました。
「それは。ニールスは天国に行ける人間に決まっているわ。だってニールスは真面目だしいい子だし日曜日はかかさず教会に行っているじゃない。そんないい子がどうして地獄に堕ちたりするの?」
そう言って母親は笑顔で優しく息子の頭を撫でました。
もちろん母親の言う通りニールスは毎週日曜日には教会に行っていましたがそれは敬虔な信仰心からではなく教会で貰うクッキーのお菓子と友達とお喋りすることが教会に行く目的でした。
なのでニールスは聖書にもあんまり興味がなく牧師の説教もつまらなく欠伸をして別の事を考えていました。
「ふーん。そうなの。お母さん。嬉しいな。僕は天国に入れるんだね。よかったー。なんだかすごく気分が楽になったよ」
「それはよかったわね。私の可愛いニールス」
そう言って母親は笑顔で優しく息子の頭を撫でました。
ニールスはしめしめと思いました。
なぜなら自分はもうすでに天国に行けることが決まっているのだからです。
自分がこれから何をしてもどう生きても天国に行けることが出来るんだと思うとニールスは嬉しくて嬉しくてたまらなくなりました。
その日からニールスはしたかったけれど「してはならないこと」なので我慢していたことをするようになりました。
ニールスは女の子達のスカートを片っ端からめくったり落とし穴を掘って女の子を落としたり学校の給食に唐辛子を入れたり、カバンの中にカエルを入れておいたり、体育の授業の時ジャージに着替えた女子生徒の制服を隠してしまったり、テストでのカンニングしたり、学校をさぼってゲームセンターで遊んだり、消防署にどこどこで火事だーとウソの電話をしたり、などさんざん悪戯をするようになりました。
ある日のことです。
ニールスは同級生のコレットにピクニックに行こうと誘って近くの小山に登りました。
コレットはニールスのガールフレンドでした。
ニールスもコレットが好きでしたしコレットもニールスが好きでした。
二人は将来は結婚しようと言い合っていました。
それは本気というよりはまだ子供の遊び感覚ですが。
コレットは「うん。いいわよ」と嬉しそうに快諾していました。
二人はその日いつもの近くの小山に登りました。
小山に登って二人はコレットの持ってきたサンドイッチを食べました。
その後。
ニールスはコレットに向かって、
「さあ。着ている服を脱ぎな」
と言いました。
「えっ。どうしたの。ニールス君?」
コレットはいきなりそんなことを言われてたじろぎました。
ニールスは以前からコレットの裸を見たいと思っていたのです。
「・・・・」
コレットはニールスの豹変に途方に暮れていました。
「一体どうしたの。ニールス君。真面目なニールス君らしくないわよ」
とコレットは言いました。
「いいから。脱ぐんだ。脱がないなら僕が脱がすぞ」
とニールスはおどしました。
コレットはどうしていいかわからず迷いました。
なのでニールスはコレットに襲いかかりました。
「やめて。ニールス君。私。ニールス君が好きよ。でもこんなエッチなことしてはいけないって学校の先生も教会の牧師先生も言ったじゃないの」
「ふん。そんなの大丈夫だよ」
ニールスはふてぶてしい口調で言いました。
「悪いことをすると地獄に堕ちちゃうわよ」
コレットが言いました。
「ふん。大丈夫だよ。だってお母さんがカルヴァンの予定説によって僕は地獄に堕ちないって言ってくれたんだから」
そう言ってニールスは強引にコレットのスカートを脱がしパンツも脱がしました。
コレットは裸にされて泣きました。
「ひどいわ。ニールス君。好きなニールス君がこんな乱暴なことをするなんて」
その後もニールスの悪戯は続きました。
ある日学校の先生が家庭訪問でニールスの家にやって来ました。
そして先生は最近ニールスが悪戯ばかりして困っていることをニールスの母親に告げました。
母親は驚きました。
(どうして真面目なニールスが・・・)
母親は信じられませんでした。
その日ニールスが帰ってきました。
「ニールス。この頃学校でいつも悪戯しているって先生から聞いたけれど本当なの?」
母親はニールスに聞きました。
「・・・・」
ニールスは黙っていました。
「そんな悪いことしたら死んだら地獄に堕ちちゃうわよ」
母親が言いました。
ニールスは驚きました。
「お母さん。どうして僕が地獄に落ちるの?だって僕はカルヴァンの予定説によって天国に行けることが保証されている人間なんでしょう?」
ニールスは眉毛を寄せて母親に聞きました。
母親は困った顔をしました。
それで苦しげに話し出しました。
「それはね。カルヴァンの考えによれば。神様は全知全能だから天国に行ける人と地獄に堕ちる人を生まれた時にすでに知っているとカルヴァンは言うんだけれど。誰が天国に行ける人で誰が地獄に堕ちる人かは人間にはわからないの。それは神様だけが知っているの。人間にはそれはわからないの。だけどニールスは真面目で優しいいい子だからついお母さんはニールスは天国に行ける人間だと言ってしまったの。だけど本当は私にはわからないの。でもいいことをしている人は天国に行けて悪いことをしている人たとえば泥棒とか強盗とか安倍晋三とか自民党議員とかのように悪いことをしている人はきっと地獄に堕ちると思うわ。だからニールスも悪いことをしたら地獄に堕ちちゃうかもしれないわよ」
母親は言いました。
ニールスは真っ青になりました。
「そんなー。お母さん。それならそうと最初にちゃんと言ってよー」
「ごめんなさい。ニールスはいい子だからつい天国に入れる人間だと言ってしまったの」
そう言って母親は息子に謝りました。
「そ、そんなあ」
ニールスの顔が青ざめました。
急にニールスに自分は地獄に堕ちるかもしれないという不安が起こってきました。
ニールスは手を組んで神様に祈りました。
「神様。ごめんなさい。もう悪い事は決してしません」
そして。
ニールスはすぐにコレットの所に謝りに行きました。
「コレット。この前はごめんね。僕が悪かったよ。許して。お詫びに何でもするよ」
とニールスは言いました。
「いいわよ。ニールス君。もうこれからはエッチなことをしないでくれれば」
コレットは寛容な性格だったのでニールスを許しました。
「ありがとう。コレット」
ニールスはペコペコと何度もコレットに頭を下げて謝りました。
そしてそれ以後ニールスは悪戯をするのをピタッとやめました。
そして元の真面目な少年になりました。
ニールスは教会で洗礼も受けました。
ニールスは悔い改めてその後は正直に生きました。
はたして神様はニールスを許して天国に入れてくれるでしょうか?
それは誰もわかりません。
なぜって。
誰が天国に入れて誰が天国に入れないかは人間にはわからず神様だけにしかわからないからです。



平成30年11月15日(木)擱筆
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