情炎の花〜その瞳に囚われて〜
プロローグ
暗い路地裏で見つめ合う二人。

傘もささずお互い言葉もなく、ただひたすら噛み付くような激しいキスに翻弄される。

この人が一体誰なのかもわからないのに、衝動を抑えることができなかった。

普通なら有り得ないこんな状況に処理しきれない私の脳は、すっかり考える事をやめてしまう。

鋭い眼光の先に灯る情欲の炎。

この先の未来なんてどうなってしまってもいいと思う程に。

唇がやっと離れて解放されたと思えば、彼はすでに後ろを向いていて、私の事なんて振り返る事もなく立ち去ろうとしていた。

路地にたった一つチカチカと今にも壊れそうな外灯の下を通った彼の濡れたYシャツの下には、
やっぱりこちらの人間ではないと言っているような柄がうっすら透けて見えた。

まるでこれ以上近づくなと言っているかのように。

私は後ろ姿を見つめ彼が暗闇に姿を消してしまうまでその場から離れる事ができなかった。
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