情炎の花〜その瞳に囚われて〜
生まれて初めてのキスは熱く深く何にも例えることができないような、甘いけど苦い。
そんな味がした。

想像していたキスとは大違いだ。

彼のジャケットからはうっすらとフローラルの香りに混ざってタバコの匂い。
そのジャケットも今は地面に落ちてしまっている。

路地にたった一つチカチカと今にも壊れそうな外灯の下を通った彼の濡れたワイシャツの下には、やっぱりこちらの人間ではないと言っているような柄がうっすら透けて見えた。

まるでこれ以上近づくなと言っているかのように。

私は後ろ姿を見つめ彼が暗闇に姿を消してしまうまでその場から離れる事ができなかった。


ふと我に返りスーツのジャケットを拾う。
雨に打たれて濡れてしまっている。
やっぱり高級なスーツだ。
ポケットの裏にブランドのタグとイニシャルが刺繍されている。

""G.K""

私はネイビーのストライプの入ったジャケットをギュッと抱きしめた。

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