情炎の花〜その瞳に囚われて〜
俺はなんとか離れすぐにその場を立ち去った。

やっちまった。
これ以上近づいたらこの衝動を我慢できない。

俺とは住む世界が違う。

けして交わってはいけない。

そして路地から抜ければ、すぐ傘をさした松田が外で待機していた。

見られたか。
だよな。
車から一人で飛び出しちまった。

あんな衝動的な行動は許されない。
命取りになる。

「若」

「悪い。大丈夫だ」

「承知」

「あの男は」

「組のもんが捕まえました」

「そうか」

やっぱり最初から見てたか。

「若」

「もうあの店には行かない。帰り道も変えろ」

「承知」

これでいい。
近づかないのが一番だ。

松田が何か言いたそうにしているが知らないふりをした。

雨に濡れてワイシャツが体に張り付いている。

凪に見られてしまっただろうか。

もういい。
二度と会うことはない。

肘をついて窓の外を見ながらそっと凪とキスをした口を手の甲で押さえた。
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