情炎の花〜その瞳に囚われて〜
すると表情ひとつ変えないあの玄が目を大きく開けた。

「すげぇ。綺麗だ」

いや、それお前の肖像画な?

「なんでこんなに上手いの?」

初めて聞いた玄の声は既に声変わりしていて低かった。
そして初めて話しかけられた俺は、緊張してしまう。
人と話すのは得意じゃない。
それでも話したいと思った。
あの玄が話しかけてくれてるんだから。

「俺、絵だけは得意で…」

俺の小さな声は向いに座る玄の耳に届いただろうか。

「え? なんて?」

やっぱり聞こえなかったらしい。
すると何を思ったのか玄は椅子ごと俺の隣に移動してきた。

「聞こえなかった。周りうるせぇんだよ」

そして周りをギロっと睨んだ。
俺の声が小さいからじゃなく、周りがうるさいからだと言った。
俺のせいにされなかった…
< 53 / 259 >

この作品をシェア

pagetop