近付きたいよ、もっと、、、。
「おい、橘?」

 何も答えない咲結を心配した玉井がもう一度声を掛けると、まだ半分程残っている弁当箱を置いた咲結が玉井の方を向いてこう口にした。

「……悪いけど、一人にしてくれない? 考えたい事があるから」

 その言葉に玉井は、

「嫌だ。そんな今にも泣きそうな顔してるお前を放っておけない。俺には話せない事なのかもしれないけど、せめてここに居るくらいいいだろ?」

 この場に居たいと言い返す。

 咲結は思う。

 そんな風に言ってくれるのは嬉しいけれど、ただのクラスメイトでいつも言い合いをしている玉井に側に居られたところで落ち着かないと。

「……私は一人になりたいの。察してよ。何でいつも私の嫌がるような事ばかりするの? お願いだから放っておいて」

 そして、酷い言い方だと思いつつも、どうしても一人になりたかった咲結はキツく言葉を言い放った。

 咲結の力になりたい玉井だったけれど、そこまで言われてしまうとこれ以上ここに居る訳にもいかず、

「……分かったよ。悪かったな、邪魔して」

 弁当箱を片付けて渋々立ち上がると、屋上を出て行った。

 再び一人になった咲結は、自己嫌悪に陥っていた。

 玉井に八つ当たりしたのも分かっているし、もう少し可愛げのある言い方をすれば良かったと後悔さえした。

 朔太郎と付き合えて幸せ絶頂だったはずの日常が何故こんな事になったのか分からず、ただただ悲しくなった。

 そこへ、朔太郎から電話が掛かってくる。

「……もしもし?」
『咲結、今平気か?』
「……うん、平気だよ。どうかした?」
『実は職場で映画の割引券貰ったからいるかなって思って』

 いつもならば、朔太郎からの電話が嬉しくて喜ぶ咲結も、流石にこの状況下ではテンションも上がらず、声のトーンも下がったまま。

 そんな咲結の変化をすぐに感じ取った朔太郎は、

『咲結、学校で何かあったのか?』

 心配そうに問い掛けた。

 その言葉と朔太郎の優しさに今まで我慢していた涙が溢れ出てしまった咲結は、泣いたら駄目だと思いながらも抑えきれず、電話口で泣きだしてしまったのだった。
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