近付きたいよ、もっと、、、。
 怖い思いをしても尚、自分と一緒に居たいと言ってくれる咲結に、朔太郎は胸を打たれる。

 ここまで自分を思ってくれる人は、咲結が初めてだったからだ。

 そして、そんな咲結を朔太郎は手放したくないと思っていた。

「――そっか。そんじゃあもう、離れようなんて言わねぇ。ってか、お前が離れたいって言っても、もう離してやらねぇ」
「!!」

 離れた方が良いと口にしていた朔太郎だけど、本音を言うと、離れたくない、咲結を他の男に渡したくない。そんな思いが日に日に強くなっていた。

「……本当はさ、俺の方が……お前と離れたくねぇんだ」
「さっくん……」
「初めてなんだよ、こんなに好きになられたのも、好きだって思えたのも。俺、鬼龍組に入ってから、一度だけ、付き合った事があるんだ」

 そして、咲結がどれだけ大切かという事を朔太郎は過去の恋愛話を混じえながら語り始めた。

「相手は高校の同級生でさ、まあ、そこそこ仲の良い奴だった。卒業してから偶然街中で再会して、結構頻繁に連絡取るようになって、あっちの相談受けたりしてるうちに、流れで付き合うようになった。当時は俺も鬼龍組に入りたてで、上手くいかない事も多くてさ、お互い、慣れない環境に苦戦しながらも励まし合う、そんな関係だった。ただ、俺はどうしても鬼龍組にいる事を話せてなくて、嘘をついてた。相手には知り合いの会社に就職したって言い続けてたんだ……けど、嘘はバレた。俺が鬼龍組にいる事を知った彼女は、俺から距離を置いた。連絡も絶たれて、それ以降会ってない」
「そんな……酷い……」

 朔太郎の話を聞いた咲結は、信じられないといった表情を向けながら彼に同情した。

 けれど朔太郎は、そんな咲結の言葉に首を横に振った。
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