近付きたいよ、もっと、、、。
 バレンタイン当日、お昼を一緒に食べようと約束していた事もあってお昼よりも少し前に待ち合わせをしていた咲結と朔太郎。

 いつもは咲結の自宅最寄り駅で待ち合わせをしていたのだけど、この日は駅前で何やら演説が開かれているらしく混み合っているので、少し離れたスーパーの駐車場で待ち合わせる事に。

 張り切っていた咲結は少し早めに着いてしまい、店内でも見て回ろうかと店の裏手から入り口の方へ向かって歩いていたその時、咲結の前にワゴンタイプの車が一台停まって行く手を塞いできた。

「な、何?」

 突然の事に咲結が驚いていると、後部座席から見覚えのある男が出て来て、

「久しぶり、咲結ちゃん。ちょっと俺らと一緒に来てくれるかな?」

 そうニヤニヤと怪しげな笑みを浮かべながら立ち尽くす咲結の腕を強引に掴む。

「い、嫌っ……」

 その男は先日自分の前に現れた朔太郎たちをよく思わない組織の一人で、危険を察した咲結が声を上げて助けを求めようとしたのだけど相手の動きの方が早く、口を塞がれ、出て来たもう一人の男と共に二人がかりで車へ引き込まれた咲結に最早成す術は無く、あっという間に車へ押し込まれて連れ去られてしまった。

「ど、どうして、こんな……」

 車に乗せられた咲結は、初めこそ恐怖で声すら出なかったものの、何とか息を整え脅えながらも男に問う。

「ん? まあ、キミに罪は無いし、こんな事して可哀想だとは思うんだけど……相手の弱みになるモノはどんどん使わないとさぁ〜勿体無いじゃん?」
「…………っ」

 けれど、その答えを聞いて話が通じる相手では無い咲結は絶望する。

(どうしよう……さっくんに知らせなきゃ……でも、どうやって……)

 そんな中、待ち合わせ時間になっても姿を見せない咲結を心配した朔太郎が電話を掛けてきた。

(さっくんだ……!)

 それに気付いた咲結がバッグからスマホを取り出そうとすると、

「咲結ちゃん、キミは今、囚われの身なんだよ? 呑気に電話に出れる訳ないでしょ?」

 隣に座る男はバッグを奪い取って勝手に中を漁るとスマホを手にし、着信相手を確認する。

「こりゃ丁度いいや。驚くよな、大切な咲結ちゃんの電話に俺が出たらさぁ〜」

 朔太郎からの着信だと分かると男は楽しげに笑いながら通話ボタンを押して電話に出た。
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