心から願っています
さっきよりも強く頷く。 それでも、納得しきれていないような先輩に、私は言った。

「先輩は何か『お願い』したいことがあるから、言ったんじゃないんですか? ないなら別に他のにしますけど」

少し先輩の様子を伺うようにみると、少し驚いている感じだった。

「でも、さっき『依織がかっちゃった』って言ってたし。先輩の『お願い』があるなら、それが1番気になります」

歳が一つしか違わないのに、敬語を使うことにイマイチ納得していない私は、語尾を濁してしまう時がある。

先輩に口からの言葉が発せられる前に、校庭全体にどよめきが起こった。

反射的に見ると、陸上部の絶対的エースが走っている。 圧倒的速さで、どんどん抜かしていっている。

「すごいよね」

友秋先輩がつぶやいた。

その目は、一瞬、感激も羨ましさも、切なさも、諦めも、いろんな感情が入り混じっているように見えた。

言葉では表しきれない、胸の奥深くは突かれるような、そんな感じの。

私はその目を、何回か見ていた。 でもいつも、一瞬。

人並みではない努力をしている先輩、それでも上には上がいて、才能には叶わない。

そう考えているのかな、と私は思っている。

「よし、わかった。じゃあ、片付けとか終わった後、校庭に来て。いや、俺のほうが遅いかもしれない」

「は、、あ、校庭、ですか」

考えに思考がいって、先輩の言葉が抜けてってしまった。

「うん。俺の話、聞いてほしい」

「わかりました。終わったら、ここにいます」

何を言われるかは、わからない。 でも、それを考えて予想するのはやめよう。

リレーはもう、アンカーだ。 3年生のアンカーは2周。400m。

考えただけで、もうキツイ。

エースの先輩は、もうとっくに走り終わっている。 アンカーじゃない。 そういう作戦なのかもしれない。

アナウンスの係が、ゴールしたチームを言っていく。

ゴールしたアンカーの選手は、もう倒れていて、仲間が寄ってきている。

6色の輪ができる。 なんかいい。


もう、体育祭が終わる。 後は閉会式。

私は友秋先輩に挨拶し、自分の席に戻った。
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