心から願っています
トラックでは、1走が順に並んでいっている。

「先輩、『お願い』教えてください」

「え? はぁ、お願い? それ言うのは依織でしょ?」

先輩に名前呼ばれるの結構好き。 というか、名前を呼ばれること自体がまず好きなんだけど。

私は、上がって下がらない口角を上げたまま、頷く。

その時、
「位置について」

3年リレーのスタートの合図がかかった。 自然とトラックの方に目がむいて、黙る。

「よーい、パン!」

歓声が湧き起こる。 3年生だから特に。

そして、私達の会話も再開する。 でも、トラックで走っている人を見ながら。

「先輩の『お願い』を聞かせてください」

さっきと同じことを言ったけど、キモチ伝わりやすいようにした。

先輩が唸るような顔をして、悩んでいる。 頭もいい先輩が悩んでいるのは、結構新鮮な感じ。

もう少しイジりたくなる。 先輩の方を見て、答えを待つ。

「え、、んー。どういうこと?」

「私が勝ったから、先輩に『お願い』をしました」

少しヒントを出したつもりだけど、そこまでのヒントじゃないかも。

先輩はまた少し唸り始めたけど、すぐにひらめいたようで手を打った。

何かひらめいたときに手を打つって、わざとらしく思うけど、それが自然と様になる先輩を、中学のときからすごいと思っている。

「あ、あー! もしかして、俺の『お願い』を聞きたいっていうのが依織の『お願い』?」

先輩の言葉に、はい、頷く。

「そんなんで、いいの? 何でも良いんだよ?」

「はい」

< 9 / 22 >

この作品をシェア

pagetop