恋の花火はコーヒーのあとで
「──おめでとうございます」
いつもの職場、いつものメンバー、いつもの朝。ただ違うのは、出勤してきた香田課長の照れた顔とお祝いの言葉が聞こえてきたことだ。
「いや~おめでたいですよね、香田課長、結婚式には呼んでくださーい」
「昨日の宮本さんすっごく幸せそうだった~」
(そんな……香田先輩と宮本さんが……)
私こと水野繭香が所属している営業二課のメンバーが揶揄うように香田課長にそう言葉をかけるのを聞いて、私の心の中はあっという間に灰色の感情でいっぱいになった。
昨晩、月に一度の懇親会という名の社内の飲み会があったのだが、私はある理由から欠席していた。
「おはよーございます、ん? 朝からなんの騒ぎっすか?」
他のメンバーよりも一足遅れて事務所に入ってきたのは私の同期である松永航平だ。
「ああ、えっと」
困った顔の香田課長の横顔を見ながら私は代わりに返事をする。
「香田課長、総務の宮本さんとご結婚が決まったらしいよ」
私の言葉に航平は面食らった顔をしてから香田課長に視線を戻した。
「え、まじすか。課長おめでとうございます」
「松永、ありがとう」
香田課長の柔らかい笑顔を見ながら、私のマウスを握っている手はショックからカタカタと震えてくる。
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